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●車寅次郎とさくらは「近親相姦」ファンタジー?『白昼堂々』の二人の情熱的シーンと渥美清=ミノタウロス説とは? [「言葉」による革命]

●車寅次郎とさくらは「近親相姦」ファンタジー?『白昼堂々』の二人の情熱的シーンと渥美清=ミノタウロス説とは?

末尾ルコ「映画の話題で、知性と感性を鍛えるレッスン」

車寅次郎がさくらの部屋にやってきて、ドギマギしながら結婚を申し込む。
さくらはいい顔をせず、プロポーズを拒絶する。
諦め切らない寅さんは、(では直接行動を!)とばかり、さくらを抱きすくめにかかるが、身体能力の高いさくらは格闘スキルによって対抗し、難を逃れる・・・。

といった夢のようなシーンを拝める映画が、野村芳太郎監督の『白昼堂々』である。

もちろん実は登場人物は「車寅次郎」ではないし、「さくら」でもない。
炭鉱労働が下火になり仕事にあぶれ、集団窃盗で生きていこうとする男女を描いた活力あふれるコメディ映画である。

映画だけではないけれど、やはり特に映画に特徴的なおもしろさの一つとして、現代に生きるわたしたちは、出演している俳優たちの人生の総体を知ってから、彼らの過去の活躍を鑑賞できることしばしばである点が挙げられる。
『白昼堂々』の前述のシーンを公開当時(1968年)に観ていたとしても、「渥美清と倍賞千恵子が演じた愉快なシーン」というくらいの印象だっただろう。
『男はつらいよ』の映画第一作が公開されたのは1969年なのだから。

ところが今、わたしたちは、渥美清と倍賞千恵子が「兄 車寅次郎と妹 さくら」として、おそらく日本という国が続く限り語り継がれる映画シリーズをまっとうした事実を知っている。
だからわたしたちは、『白昼堂々』のシーンを「近親相姦未遂」という愉しい鑑賞が可能になる。
さらにその翌年から映画『男はつらいよ』シリーズがスタートしたことを考えれば、

(寅さんが本当に女性として愛し続けていたのは妹のさくらであって、各エピソードでマドンナに振られているのは実は、寅さんの方から敢えて振るように持って行っているのではないか。寅さんはさくらしか愛せないのだから)

といった、愉しい想像も可能となるのである。

2018年春、WOWOWは渥美清特集を放送し、既に『拝啓天皇陛下様』も鑑賞できた。
太平洋戦争を題材にコメディ映画を作るなど、昨今ではひょっとして不可能になっているのではないか。

『男はつらいよ』シリーズさえすべて観ているわけではないわたしが語るのもいささかおこがましいが、映画スターとしての渥美清の魅力というのはその「怪物性」ではないか。
もちろんそれだけではないのだけれど、渥美清が登場した瞬間の(出た!見た!!)という快感は格別なものがある。
前にも少し書いたけれど、クレタ島に迷い込んだ人間がミノタウロスを目撃したかのような。

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lequiche

おお、インセスト!
素晴らしいです。
それできっと正解だと思います。(笑)
by lequiche (2018-05-05 04:08) 

いっぷく

>現代に生きるわたしたちは、出演している俳優たちの人生の総体を知ってから、彼らの過去の活躍を鑑賞できることしばしばである点が挙げられる。

時系列に作品を鑑賞するのではなく、現在から過去にさかのぼって、ということですね。
それですと私の場合、『白昼堂々』では、藤岡琢也と三原葉子の娘役に出てきた「モモエ」が、髪型から山口百恵ではないかと一瞬思ってしまいました。でもそれは今だからであって、何しろ山口百恵がデビューする6年も前の作品ですからね。1968年に見ていたら、山口百恵とは思わなかったでしょうね。
http://sengoshi.c.blog.so-net.ne.jp/_images/blog/_414/sengoshi/momoe.png
でも山口百恵よりも、こっちのモモエの方がずっといいと思いました。やせていてショートカットですから、いわゆる「ボーイッシュ」なはずなのに、なんかちょっとドキドキしました。交際できたらしたいと思いましたし(笑)作品の実績がこれしかないので、どうして1作で消えたのか謎です。私でさえ、台詞のあった役が「たんたんたぬき」「ああ家族」「氷紋」……3作はありましたよ。情報が不十分で妄想もできません

>寅さんが本当に女性として愛し続けていたのは妹のさくらであって

これはたしか、男はつらいよの脚本集の2巻だったと思いますが、山田洋次監督と井上ひさしとの対談で井上ひさしが指摘していますね。
当初は寅さんが普通にフラレていたのですが、第8作目の池内淳子、第10作目の八千草薫などは、マドンナ側が積極的なのに引いてしまうし、第16作目の樫山文枝は「好きな人ができた」と言われただけで、それが自分であることを確認もせず恋敵ポジションの小林桂樹だと思いこんで諦めてしまうのです。それ以外にも、何が何でもということがないんですね。いつもフラれるから自分に自信がないということもあるのかもしれませんが、いろいろ考えると結局は寅さんの理想はさくらではないのか、という話になるわけです。

渥美清と倍賞千恵子は、やはり山田洋次監督の『あにいもうと』で兄妹を演じています。これは東芝日曜劇場でしたが、原作は室生犀星。
倍賞千恵子は奉公先で書生と関係して妊娠しましたが、書生は実家に帰ってしまいました。兄の渥美清は倍賞千恵子が帰ってくるたびに悪態をつきます。母親(乙羽信子)が「昔はあんなに仲が良かったのに、どうしてこんなふうになってしまったのかねえ」と嘆きますが、父親(宮口精二)は、それが渥美清なりの思いやりなんだといいます。つまり、自分が悪役になって悪態をつくことで、家族は倍賞千恵子に味方をして批判的な目で見られなくなるのでそうしていたという話です。室生犀星の養母がモデルであったといいます。
by いっぷく (2018-05-05 04:36) 

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