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小説 熱帯魚のハート・その喜劇と悲劇 ブログトップ
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小説 熱帯魚のハート・その喜劇と悲劇 23 水面と水底 [小説 熱帯魚のハート・その喜劇と悲劇]

ひょっとしたら他の魚と一緒にすると元気になるかも・・
そんな根拠のない希望もなくはなかった。
そして大きな水槽へ彼女を還す。
彼女は水の中央に留まることができない。
まず水面すれすれに元気なく浮かんでいる。
しばらくすると、水槽の底にしかいられなくなる。
水槽の底でなんとか体を起こした状態のソードテール。
彼女が還って来たのに、もはやあのオスは近寄って来さえしない。
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小説 熱帯魚のハート・その喜劇と悲劇 22 感情と道理 [小説 熱帯魚のハート・その喜劇と悲劇]

小さな水槽の中、一匹だけのソードテールはもはや底の方でほとんど動かなくなった。
同じ姿勢のまま、苦痛を身に重く湛え、ただ目は何かを見ていた。
もう死ぬのだろう。
そうとしか思えなかった。
一匹だけで死ぬよりは、せめて他の魚と一緒に・・。
この考えが熱帯魚を飼う姿勢として正しいかどうかはわからない。
おそらく病気の魚は他の魚と一緒にすべきではないのだろう。
けれどそんな道理よりも、(せめて他の魚と一緒に)という感情が勝った。

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小説 熱帯魚のハート・その喜劇と悲劇 21 ソードテールは何を見ていたのだろう [小説 熱帯魚のハート・その喜劇と悲劇]

一匹になったソードテールは何を見ていたのだろう。
ほとんど水槽の底で留まるようになっていた。
浮力を失った魚。
目はどんよりと曇っている。
ふつうのソードテールはとても純粋できれいな目をしているのだ。
そしてその目はときに悪戯っぽく見えることもある。
それだけにどんよりとしたソードテールの目を見るのはつらい。
けれどまだ元気になるんじゃないかという希望も少しはあった。
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小説 熱帯魚のハート・その喜劇と悲劇 21 孤独なソードテール [小説 熱帯魚のハート・その喜劇と悲劇]

一匹だけで水槽に入った魚は寂しそうに見える。
それは人間の思い入れだけでなく、本当に寂しいのだと思う。
証拠を出せて言われても、そんなものないが。

一匹だけになったメスのソードテールは寂しそうだった。
けれどおそらく体の不調は寂しさを凌駕する。
人間だってそうじゃないか。
寂しさを感じられるうちは、まだ人間なんだ。
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小説 熱帯魚のハート・その喜劇と悲劇 20 ソードテールの避難 [小説 熱帯魚のハート・その喜劇と悲劇]

乱暴なオスに体当たりし続けられるとおそらく近いうちに死ぬだろう。
現に水槽の隅へ隅へと追いやられるメスの背びれや尾びれはみるみる摩耗していた。
ひれに力が無くなり、端の方から削れていくのだ。
体の色も徐々に薄くなっている。
飼い主としては、このままにしておけない。
ひとまず大きな水槽から避難させることにした。
このメスを別の小さな水槽に移すのだ。
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小説 熱帯魚のハート・その喜劇と悲劇 19 消耗していくソードテール [小説 熱帯魚のハート・その喜劇と悲劇]

オスの乱暴な求愛行動。
自然の中であればどこへでも逃げることができるのかもしれない。
水槽の中では、どこにいようが見つけられるだろう。
オスからしても、求愛対象のメスソードテールは2匹しかいなかった。
なぜ「あちら」ではなく、「こちら」だったのかは分からない。
もう一匹のメスは大きかった。
今では潜水艦のように水槽の中を泳いでいる。
小さい方が可愛く見えたのか?
けれど乱暴にぶつかられ続けるメスは、みるみるうちに消耗していった。
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小説 熱帯魚のハート・その喜劇と悲劇 18 オスはメスを責め立てた [小説 熱帯魚のハート・その喜劇と悲劇]

一匹だけのオスソードテールは、メスよりもかなり体が小さい。
けれど求愛行動はかなり乱暴で、
死んだソードテールに対しては、ある時期かなり激しく体をぶつけていた。
しつこくつっついていたと言った方が正確か。

魚の世界で「適切な求愛行動」と「過度な求愛行動」の境目はどこにあるのだろう。
少なくとも死んだメスソードテールにとって、
そのオスの行動は非常につらかったようだ。

彼女の居場所は水槽の隅、水草の下、できるだけそのオスから遠い場所へと変わっていった。

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小説 熱帯魚のハート・その喜劇と悲劇 17 ソードテール、死の原因 [小説 熱帯魚のハート・その喜劇と悲劇]

ソードテールは死んだ。
人間でも動物でも魚でも、死の原因は一つではないだろう。
原因の中で一番影響力が強かったと類推されたことが「死因」として残る。
だから「死因」が常に正確であるとは思えない。

ソードテールは死んだ。
その死に大きく影響を与えたのは、水槽に一匹だけいるオスのソードテールだったと思う。


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小説 熱帯魚のハート・その喜劇と悲劇 16 あのソードテールの死 [小説 熱帯魚のハート・その喜劇と悲劇]

今朝見ると、あのソードテールは水槽の底で横になっていた。
結局彼女を見舞った死の誘いから逃れることはできなかった。
ぼくはしばらく水槽の底で動かないソードテールを見続けた。

毎日世界でどれだかの魚が生まれ、そして死んでいるだろう。
ぼくはその中の一匹の死を見届けたにすぎない。
けれど遠い国からやって来て、ぼくがその姿を見つめていたソードテールを他の見たことのない魚と同一視することはできない。

ぼくはもう少し、このソードテールについて語ることにしよう。
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小説 熱帯魚のハート・その喜劇と悲劇 15 現れたソードテール [小説 熱帯魚のハート・その喜劇と悲劇]

昨夜見つからなかったソードテールは、今朝になると水槽の前面にいた。
相変わらす底でいかにもしんどそうにじっとしている。
「レッド」ソードテールなのに、腹のあたりがかなり白っぽくなっている。
けれど決して小さい熱帯魚ではない。
水槽の中にいて保護色になってしまう色でもない。
それなのに昨夜は見つけることが出来なかった。
いったいどこにいたのだろう。 



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