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「人気者」は偉いのか? いや、そうでもない。 [ルコ的読書]

昨日取り上げた言葉をもう一度。


ただ、宮本武蔵という人自身は、『五輪書』を読めば読むほど、人気スターになるべき性質をまるで欠いた、根っから愛相のない人だったということがよくわかる。そのことはこれから追々お話しなくてはならないでしょう。しかしこれは、彼がつまらない人間だったという意味では少しもありません。つまらないのは、人気スターのほうでしょう。

        「宮本武蔵『五輪書』の哲学」前田英樹 岩波書店

特に「つまらないのは、人気スターのほうでしょう。」という部分を喰らわせてやりたくなる「人気者」ってけっこういるんじゃないでしょうか。
例えば学校名などでもそうだし、特に「テレビ」ってやつではそうだ。
以前よく話題にした福山雅治などは「世に出る出ないというのは、どれだけ世間が求めているかだ」的なことを語っていたが、その「世間」というもののレベルも大いに問題になるでしょう。
成熟した考えや嗜好を持っている世間なのかどうか。
日本の場合は極度な商業主義と相まって、「人気=金が稼げる=善」という公式を単純に信じている人たちも多い。

「人気」とは何か・・さらにじっくり考えてみるべきですね。
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「詩」の歓び  ボードレール「悪魔への連禱」 [ルコ的読書]

「詩集を持つこと」をお薦めした手前、ときどき素晴らしい詩を紹介するべきだと自覚しているわたし。
今日はいきなりメジャーですが、シャルル・ボードレールの詩を。
「悪魔への連禱」の一部です。


おお、汝、天使のなかで最も博識で最も美しい者、
運命に裏切られ、賛歌を奪われた神、

おお、悪魔よ、ぼくの長い悲惨を憐れんでくれ!

おお、追放された君主、どんなに虐げられ、負かされても
かならずさらに強くなって再起する汝

おお、悪魔よ、ぼくの長い悲惨を憐れんでくれ!

    
   佐藤朔訳  「フランス詩集」浅野晃編 白凰社

デカダンがボードレールの代名詞のようになっているけれど、ある意味健康的なまでの強さを持っていると思います。
わたしはこの詩を読んで、力が湧いてくるのです。

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宮本武蔵は人気者?   「宮本武蔵『五輪書』の哲学」前田英樹 岩波書店 [ルコ的読書]

「宮本武蔵『五輪書』の哲学」(前田英樹著)は実に興味深い本で内容についてはまた改めて取り上げたいが、宮本武蔵とは関係ないけれどおもしろい文章があったので紹介してみたい。


ただ、宮本武蔵という人自身は、『五輪書』を読めば読むほど、人気スターになるべき性質をまるで欠いた、根っから愛相のない人だったということがよくわかる。そのことはこれから追々お話しなくてはならないでしょう。しかしこれは、彼がつまらない人間だったという意味では少しもありません。つまらないのは、人気スターのほうでしょう。

        「宮本武蔵『五輪書』の哲学」前田英樹 岩波書店

実にいい言葉だと思いません?
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詩を読もう!詩集を持とう!   ランボーの描いた「オフェリア」。 [ルコ的読書]

先だって「詩集」の素晴らしさについて書いたので、堀口大學訳のランボーを少し紹介します。
「オフェリア」の一部。
もちろんシェイクスピアの「ハムレット」が題材。
ランボーとしては初期に当たる作品で、かなり分かりやすい部類に入ります。
もちろん美しくも妖しい世界が見事に創造されていることは言うまでもありません。

オフェリア

星かげ浮べ波立たぬかぐろき水に運ばれて
大白百合と見もまごう白きオフェリア流れゆく、
長き被衣(かつぎ)に横たわり、いと静やかに流れゆく。
遠くかなたの森のかた、鹿追いつむる狩の笛。


  「ランボー詩集」堀口大學訳 新潮文庫
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「詩集」を持つことの薦め 1 [ルコ的読書]

全ての人にお薦めしたいのが優れた「詩集」を手元に置いておくことです。
例えばわたしであれば、必ずバッグに薄い文庫本の詩集を入れておき、時間があれば取りだしてページをめくります。
詩を読むことの効能は実に多様で、ここですべて説明することはできませんが、習慣にするとあらゆることが磨かれてくるのは間違いありません。
もちろん条件として、最高レベルの詩であることは絶対に必要です。
イージーな「ポジティブ思考」的言葉をワンフレーズやツーフレーズで書きなぐったようなものをわたしはあまり好みません。
世界はそんな風に単純なものではないと思っていますので。


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「あからさまさ」と、カラヴァッジョの「ホロフェルネスの首を切るユディト」、ルーカス・クラナハ(父)の「ユディト」。 [ルコ的読書]

「ホロフェルネスの首を切るユディト」だけでなく、カラヴァッジョの作品には「現場写真」を思わせるものが多い。
ユディトの伝説を描いても他の画家とまったく雰囲気が違うのはその「あからさまさ」だと言うこともできる。
あるいは「身も蓋もない」描き方と言い換えることもできるだろうか。
もちろん「首を切る」というのがポイントの話だけに、他の画家が描いたユディト伝説もかなり際どい画となっているが、それでもたいがいしっかりと「画」に収まっている。
カラヴァッジョの場合、その圧倒的な技術がまるで鑑賞者を驚かすために使われているような痛快さがあるのだ。

カラヴァッジョと違う意味で「あからさま」なのが、何と言ってもルーカス・クラナハ(父)の「ユディト」だ。
この禍々しい画に関しての話は、次の機会としよう。
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ユディトの顔の希少性  カラヴァッジョ「ホロフェルネスの首を切るユディト」  [ルコ的読書]

カラヴァッジョの「ホロフェルネスの首を切るユディト」は、まさに「暗殺の瞬間」を描いた、しかもヴィヴィッドな表現で描いたところに大きな特徴がある。
血がスプラッター映画のように噴き出し、ホロフェルネスの顔は醜く歪んでいる。
しかし最も印象深いのはユディトの顔だ。
美しい・・だけではなく、何というのだろう、とてもチャーミングなのだ。
「チャーミングな女性像」・・これは絵画の歴史に置いて、さほど多く観られるものではない。
例えば「モナリザ」と付き合いたいと思う男性は少ないだろうが、カラヴァッジョの描いたユディトであれば付き合いたいと思う男は多くいるだろう。(もっとも、首を切っている最中だが 笑)
それほど現代性に溢れ、魅力的に描かれている。
逆に言えば、だからこそカラヴァッジョの絵からは通俗性が濃厚に漂うわけだ。

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画家たちの愛したユディトの物語とは? [ルコ的読書]

旧約聖書外典「ユディト記」の主役と言えるユディト。
ユディトは美しき寡婦で、ベツリア(べトリア)という町に住んでいた。
ユディトは美しいだけでなく非常に信仰心の強い女性で、周囲の人たちから尊敬の念で見られていた。

ある時、アッシリア王により派遣された司令官ホロフェルネスの軍勢がベツリアの町を包囲し、水源を断って降伏を迫る。
陥落寸前となったベツリアを鼓舞し、包囲を解く作戦を自ら実行したのがユディトだった。

             (ユディトの話、続きます)
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わたしの愛するカラヴァッジョ作品  「ホロフェルネスの首を切るユディト」その2 [ルコ的読書]

ところでユディトの物語をご存じだろうか?
これは旧約聖書外典「ユディト記」の中の物語なのだが歴史的事実かどうかというと、「違うだろう」という説が有力になるようだ。
かと言って、神話や聖書にまつわる話を「単なる作り話・迷信」などというスタンスも実につまらない。
長い年月の渡って伝わってきた話には、そのような「話」が生まれる「何か」があったと考える方が理にかなっているし、それよりも何よりも、わたしは「神話」や「聖人伝」の美しさに魅了されるのだ。
その「美しさ」は人間の魂の深層にまで食い込んで来るもので、多くは「恐怖」をも伴う。
そして「美」は「恐怖」を伴っていてほしいというのがわたしの感覚なのだ。

次回ユディトの物語について簡単に触れよう。
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わたしの愛するカラヴァッジョ作品  「ホロフェルネスの首を切るユディト」その1 [ルコ的読書]

さて、わたしの特に愛するカラヴァッジョ作品について触れていこう。

まず「ホロフェルネスの首を切るユディト」。

首を着られるホロフェルネス。
ユディトの剣は、ホロフェルネスの首に半分以上食い込んでいるように見える。
ホロフェルネスの首からほとんど真っ直ぐに血が飛び出る。
このあからさまに真っ直ぐな、陳腐と言えなくもない「血」の表現が、カラヴァッジョの真骨頂の一端だ。
高尚な思想などまるでなさそうな、しかしその異常な感覚と圧倒的な画力に鑑賞者はグウの音も出ない。

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