「よっしゃ、ちょっと出てみようか」
 意を決し、息子に声をかけて立ち上がろうとする。
「あ、待ちや、俺が出てみらあ」
 母を制し、奴は「うんしょ」と言いながら立ち上がり、居間のすぐ側の玄関へ向かう。
「はじめはちょっとだけ開けよ!」
 声を潜めながら叫んだ真奈子のアドバイスを背に、玄関に向かって「はい!はい!」とやや威圧的な応答をしながら、ロックを回し、一〇センチほどドアに隙間を作るとそこには「どこかで見た顔」があり、その上に「真っ赤な唇」がぱっくりと開いていた。
「えっ?」