せっけんはなかなか全部消えない。
最後の2~3cmになってから、「命の最後の抵抗」とばかり、長期間同じ大きさでいる。
あれだけおおきかったせっけんは、すぐ小さくなるのに、それで考えたらこんな小さな塊はすぐに無くなってしまうはずなのに。
堀田栄子はもう少しバスルームにいようと思った。

「栄子おおお」

栄子は一瞬左頬をしかめる。強くしかめるのではなく、軽く。

「製造業派遣が40万人失業するかもしれないんだってよ」

咲夫の声は、最近どうも栄子の気持ちを重くする。