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2009年2月に一歩手前の土曜日 4 [小説 今だ現在の歴史]

 栄子も新聞は読まなかった。今もあまり読まない。
 しかし毎日広げるようになった。これは大きな変化だ。
 かと言って「削減」だの「赤字」だのがきっぷよく飛び込んでくるわけではない。
 音楽や映画の記事を見つけて眺めるようになった。
 例えば今日なら「ベンジャミン・バトン 数奇な人生」の記事だ。
 意味ははっきりつかめなかったが、
デヴィッド・フィンチャー、フィッジェラルドといった固有名詞が
どんなに新鮮に心に入ってきたことか。

 明日から2009年2月。
「発つのよ」
 栄子は敢えて普段使わない言葉遣いで口に出してみた。
 

 

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2009年2月に一歩手前の土曜日 3 [小説 今だ現在の歴史]

咲夫が見た「削減」と「赤字」。

全日空の赤字90億円、新日石は2400億円、みずほが505億円、
証券大手3社は全て赤字・・。
そして自動車国内生産25%減。
NECが20000人超の削減、日立が戦後最悪の7000億の赤字・・。

(きっぷがいいな)
 咲夫は漠然と思った。
 数字の単位がきっぷがいいのだ。きっぷがよすぎて現実味がない。

 ところで咲夫の現実とは何なのだろう。
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2009年2月に一歩手前の土曜日 2 [小説 今だ現在の歴史]

実は咲夫が工場に勤務をしている自動車メーカーN社は
半月前に1000人以上の人員削減予定を発表していた。

それからだ、
咲夫がテレビとスポーツ欄以外も開くようになったのは。

開いてはみたが、理解できる見出しは少なかった。
その中で「削減」「赤字」は数少ない理解できる言葉だったから、
より生き生きとした姿となって咲夫の意識に飛び込んできた。
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2009年2月に一歩手前の土曜日 1 [小説 今だ現在の歴史]

 あの晩、バスルームから出たら咲夫は新聞を広げたままテレビを観ていた。
 番組は歌合戦だ。プロのシンガーが競うのでなく、つまらないコメディアンが競う歌合戦。

 2009年1月31日土曜日。咲夫と栄子は2人とも仕事が休みという珍しさだった。

(これは、何かある)
 栄子は、そう感じていた。
(パチンコ、何時に行こう)
 咲夫は、そう思案していた。

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製造業派遣40万人の失業が予測された夜 2 [小説 今だ現在の歴史]

「製造業派遣が40万人失業するかもしれないんだってよ」
「ふ~ん」
 栄子は咲夫に聞こえるくらいの大きな声で「ふ~ん」と言う。
 この小さなせっけんをどうするべきだろう。すでに新しいせっけんは出してある。小さな残りだけでは泡立たないだろうし、どうも目障りだ。
 かと言って捨てるのはどうだろう。それでもいいじゃないかと思うが、どうも引っかかるものがある。

「おーい、ふ~ん、じゃないよ。40万人失業だぞ」

 咲夫の声。だからどうだというのだ。早くバスルームから出てこいというのか。そして話の相手をしろと。
 咲夫はN社の自動車工場に勤めている。「40万人失業可能性」のニュースは栄子も読んだ。
 だからどうだというのだ。
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小説 今だ現在の歴史 製造業派遣40万人の失業が予測された夜 [小説 今だ現在の歴史]

せっけんはなかなか全部消えない。
最後の2~3cmになってから、「命の最後の抵抗」とばかり、長期間同じ大きさでいる。
あれだけおおきかったせっけんは、すぐ小さくなるのに、それで考えたらこんな小さな塊はすぐに無くなってしまうはずなのに。
堀田栄子はもう少しバスルームにいようと思った。

「栄子おおお」

栄子は一瞬左頬をしかめる。強くしかめるのではなく、軽く。

「製造業派遣が40万人失業するかもしれないんだってよ」

咲夫の声は、最近どうも栄子の気持ちを重くする。

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