栄子も新聞は読まなかった。今もあまり読まない。
 しかし毎日広げるようになった。これは大きな変化だ。
 かと言って「削減」だの「赤字」だのがきっぷよく飛び込んでくるわけではない。
 音楽や映画の記事を見つけて眺めるようになった。
 例えば今日なら「ベンジャミン・バトン 数奇な人生」の記事だ。
 意味ははっきりつかめなかったが、
デヴィッド・フィンチャー、フィッジェラルドといった固有名詞が
どんなに新鮮に心に入ってきたことか。

 明日から2009年2月。
「発つのよ」
 栄子は敢えて普段使わない言葉遣いで口に出してみた。