手塚治虫の「ブラック・ジャック」がどれだけ素晴らしい作品であるか、ここでわたしがうだうだ書く必要もないだろう。分かりやすく、おもしろく、しかも深く、さらにヴィジュアル的にも精神的にもグロテスクな部分をが底流に流れており、「暗黒」を覗き見たいという人間の好奇心にも十分に応えている。しかしその映像化となると、あの「ブラック・ジャック」を誰が演ずるのかという大問題にぶつかるわけで、加山雄三なんてあなた、「ブラック・ジャック」と真逆のキャラクターを持った俳優が演じたりしてたこともあるな、などと思い出したりしたわけだが、実はわたしが今までに観た「ブラック・ジャック」で最もよかったと思うのは、映像ではないけれど宝塚で安寿ミラが演じたものだ。こけた頬、まったく無駄な肉のない引き締まった体型、鋭い眼差し、濃厚に漂わせる孤独感と孤高性・・。まずは申し分のない「ブラック・ジャック」だった。