今おれの前にあるのが「越知町冬物語」だ。
「物語」と書かれているけれど、小さな3つ折のリーフレットに過ぎない。
「越知町冬物語」か、おれはこれをどこで手に入れたのだっけ。
忘れた。
観光用のリーフレットなど、高知のいたる所に置いてある。
「越知」。
これは「おち」と読む。
「越知町冬物語」は越知町観光協会によって作成されたものだ。
おれはその小さな宣伝文を見ながら、グッとホットミルクを飲み干す。

越知か…。
おれは越知へ行ったことがあるだろうか。
行ったとも行かなかったともはっきりと言えない。
高知にいるとは言っても、足を運んでない場所はいくらでもある。
県庁所在地である高知市に住んでいるおれにとって、ひょっとしたら高知県の辺境よりも東京の方は意識の中では近いのかもしれない。

そんなもんさ・・・。
おれはグラスに残っていた水を飲み干す。
溶けかかったいくつかの氷が小さな音をたてる。