●成瀬巳喜男監督のエロティシズム、『山の音』、原節子の「鼻血」、山村聰の気品。

末尾ルコ「映画で知性と感性を鍛えるレッスン」

4月18日にBSプレミアムで成瀬巳喜男 監督の『山の音』が放送されたので鑑賞したのですが、原作は川端康成です。
成瀬巳喜男には世界映画史上の傑作『浮雲』があって、こちらは林芙美子原作。
男女関係の怖さを描いた文学作品と相性がいいのが成瀬巳喜男監督です。
『山の音』も派手なシーンは一切なく、しかしワクワクしながら観続けられる90分強の時間でした。
山村聰、原節子、上原謙、杉葉子らスター俳優を中心に展開される物語。
原節子と上原謙が夫婦役だけれど、夫には愛人もおり、妻に対しては非道なまでに冷たく当たる。
原節子の義理の父役である山村聰はそのような状態の「菊子(原)」に対して同情以上の感情を持っている。

山村聰が演じる「尾形信吾」が実に気品があり、しかもダンディです。
鎌倉の閑静な住宅に同居する男性と義理の娘が心を通わせるというエロティックなストーリーながら、成瀬『山の音』はそのエロスを鑑賞者の精神の内側に描こうとします。

しかし内包されたエロティシズムが絶頂を迎えるシーンも用意されている。
原節子が「鼻血を出す」シーン。
あからさまに鼻血を見せたりはしない。
しかしそれを見た山村聰の「動揺」が、「鼻血に対する動揺」のみでないことも、とてもよく理解できるようになっているのです。