●「やられ方」が魅力的なプロレスラーは、やはりアントニオ猪木か?あの美しき、大木金太郎戦。

末尾ルコ「プロレスの話題で知性と感性を鍛えるレッスン」

バット吉永VS神風杏子はキックルールで行われた試合であり、全日本女子プロレスのリングで行われたものだけれど、その内容はプロレスではなかった。
しかし「プロレスのリングで行われれば、すべてプロレスである」という考えもあり、その辺りのグレーゾーンと言うか、玉虫色と言うか、プロレスのおもしろいところであり、「世の中」からは理解されないところでもあるわけだ。
が、平成のプロレスはあまりに「プロレスはプロレスでいいんだ」が定着してしまい、グレーゾーンも玉虫色度もほとんど漂ってこなくなった。
それはさて置き、バット吉永VS神風杏子が、特に大きな試合としてカードを組まれたわけでもないのに、ずっと記憶に残っているかというと、そのフィニッシュシーンがあまりに鮮烈だったからだ。
バットのバックブローを喰らい、斜めに、しかもややゆっくりと崩れていく神風杏子。
神風杏子自体は、例えば現在のRENAなどと比べると、実に地味な選手だったけれど、その「崩れていく姿」だけは美しかった。

こうしたリアルファイトとは異なる文脈で、「技を受ける」必要があるプロレスは、「やられ方」が魅力的な選手が、より魅力的な試合を生み出す可能性を持つとも言える。
となると、やはりすぐ挙がるのが最盛期のアントニオ猪木だ。
特に歴史的名勝負の一つとされる、アントニオ猪木VS大木金太郎。
フィニッシュとなった猪木のバックドロップよりも、何度となく大木の頭突きを喰らい、崩れていく猪木の美しいこと。
「やられる時の美しさ」においても、最盛期のアントニオ猪木は際立っていたのである。