●『新BS日本のうた』で市川由紀乃が『天城越え』に挑戦、あるいは坂本冬美の『喝采』は?

末尾ルコ「音楽の話題で知性と感性を鍛えるレッスン」

7月2日放送の『新BS日本のうた』で市川由紀乃が『天城越え』に挑戦していた。
『天城越え』と言えば、「=(イコール)」で完璧に石川さゆりと結ばれているほど石川さゆりそのものであり、現代の名曲中の名曲、絶唱中の絶唱の一つである。
しかも石川さゆり自身が現在も含めて長い間日本歌謡界のトップに君臨している現実も考えると、他の歌手がステージで『天城越え』を歌うのは大きなリスクも伴う。
下手な歌唱をしようもななら大きな顰蹙を買い、失笑が起こる結果になりかねない。
で、『新BS日本のうた』で市川由紀乃が歌った『天城越え』はどうだったかと言えば、「いい」が、「凄くはない」がわたしの感想だった。

『天城越え』のような曲の場合、オリジナルを歌っている石川さゆりと比較するなと言われても無理で、そして石川さゆりの『天城越え』は常に凄いのである。
市川由紀乃が現在国内で最も脂の乗り切った歌唱をする歌い手の一人であるのは間違いないが、『天城越え』の「凄愴さ」を存分に表現するには至ってなかった。
『矢切の渡し』のロマンテイシズムは見事に表現し切った市川由紀乃にしても、である。

しかし「歌」と「歌手」が分かちがたく結びついている場合、他の歌手がそれを表現しつくすのは極めて困難な作業であり、例えば現在日本の大歌手の一人、坂本冬美でさえも、ちあきなおみの『喝采』の世界を存分に表現しているとは言えなかった。

が、こうした挑戦は、素晴らしい歌手たちが行うのであれば、いつでも大歓迎なのだ。