●今だからこそ、アントニオ猪木の「セメントの強さ」を仮説として検証してみる。その3。~と言うよりも、話はハーリー・レイスの喧嘩とニードロップが中心となる。

末尾ルコ「プロレスの話題で、知性と感性を鍛えるレッスン」

ハーリー・レイスVSタイガー・ジェット・シンを観た。
なぜこの試合を観たかというと、「アントニオ猪木とハーリー・レイスがセメントで試合をしていたら」というテーマのヒントが欲しかったからである。
「猪木とハーリー・レイスが本気でやりあったら」という仮定も、非常に難しくなかなか想像し難いものだ。
特にハーリー・レイスは観た範囲では常にマイペースで試合をするタイプであり、相手レスラーはそれに合わさざるを得ない状態になる。
決してスピーディではないが、かと言って、動きが鈍いわけでもない。
スローペースのようでいて、随所で鋭い動きをする。
結果的には試合全体が流れるような展開となる。
「意外な展開」とはなかなかならないはーりーの試合ぶりだが、いまだ「最高レベル」と評される華麗な「受け」に不思議な格調を付けていく。

1977年にジャンボ鶴田を相手に行われたNWA世界戦はなかなかの好試合で、今観ても非常におもしろいのだが、2m近い鶴田に上背こそ見劣りはするが、身体の厚みなどを加味すれば、決して「体格的に劣っている」とは感じない。
その厚みのある身体で、実に軽やかに動き、一つ一つの技も切れる。
特に注目したいのはレイス特有の二―ドロップで、ダウンしている相手の額をめがけ、ゆったりと左脚を上げ、鋭く落とす。
普通のレスラーは、二―ドロップは膝を落とすときに、巧妙に相手の身体から外へ逃がす場合が多いのだが、相手の額を直撃するレイスのニードロップは、「レイスだからこそ許される」技の一つだったのかとも想像する。

で、ハーリー・レイスVSタイガー・ジェット・シンなのだが、ほとんど試合らしい展開にならずに数分で終わってしまうので比較資料とはほとんどならなかった(笑)。
なぜタイガー・ジェット・シン戦を選んだかというと、有名外国人レスラーの中では最も猪木と手が合っていたと思うからだ。
これが対ジョニー・パワーズだと、パワーズが猪木に付き合っているように見えるのですな。

「レイスは喧嘩が強い」という伝説もあった。
確かにレイスにはその評判に相応しい雰囲気があった。
喧嘩とセメントマッチはまた違うものだろうけれど、例えばレイスが本気で潰し合いをやって、簡単に負ける姿も想像できない。
「猪木VSレイス セメントマッチ」の結論は今のところ出せないけれど、伝説のズビスコ兄弟の指導を受け、カーニバルレスラーとして喧嘩はお手の物だったとされるハーリー・レイスへの幻想は今でも続いている。