●『カバ―ズ』薬師丸ひろ子の歌唱と「角川三人娘」の渡辺典子とストロング金剛。

末尾ルコ「音楽と昭和芸能史の話題で、知性と感性を鍛えるレッスン」

BSプレミアムの『TheCovers』(『カバ―ズ』)という番組に薬師丸ひろ子が出演していた。
薬師丸ひろ子は決して上手な歌い手ではないが、キャリアを積んだ女優ならではの情感が溢れる歌唱をするので、曲にもよるけれど、とても気に入ってる。
「女優の歌唱」ということで言えば、最近大竹しのぶが歌う姿をよく見かけるが、こちらは表情などが芝居がかり過ぎていてあまり好きになれない。
女優としての大竹しのぶにはいつも楽しませてもらっているのだけれど。
このところ原田知世にまた大きな注目が集まっている感があるが、薬師丸ひろ子には『セーラー服と機関銃』、原田知世には『時をかける少女』と、問答無用の代表作を持っているのは圧倒的に強い。
まあこの2作、監督も相米慎二と大林宣彦で、そりゃあぜんぜん違いますわなあ。

『セーラーと機関銃』の頃の薬師丸ひろ子の凄まじいバリュー感、カリスマ性は、同時代を生きていた者にしか本当の実感は湧かないかもしれないが、その神秘性も含めて、アイドルと言うよりも、まさしく唯一無二の大スターだった。
薬師丸ひろ子が初めて『ザ・ベストテン』へ出演し、『セーラー服と機関銃』のテーマ曲を歌った時の姿は、「降臨」という言葉さえ相応しく感じたものだ。
わたしは特に薬師丸ひろ子のファンだったわけではないけれど、それでもそう感じたのだ。
(薬師丸ひろ子がテレビへ出る?)(薬師丸ひろ子が生放送で歌う??)・・・あり得ないと思われたことが起こってしまった、それは本当に「事件」そのものだった。
その後、徐々に薬師丸ひろ子はカリスマ性、神秘性を失っていくが、それでも地道に着実に女優を続けている姿は素晴らしいと思う。

などと書きながら、ふと思い出すのが、薬師丸ひろ子、原田知世と並んで、「角川三人娘」として売り出された渡辺典子のことだ。
今となっては他の二人とは別次元にいるような渡辺典子だが、当時は3人並んで写真へ写ったりしていたし、顔だちだけで言うならば、3人の中で最も美形だったと思う。
しかし「美形」ながらも、「スクリーンを支配できる顔」ではなかった。
薬師丸ひろ子は、『野生の証明』の時点で、「スクリーンを支配する顔」だったのだな。
結局渡辺典子出演の映画で最も印象に残っているのは『伊賀忍法帖』となってしまったが、この作品はプロレスファンにとって、「ストロング小林がストロング金剛になってしまった映画」として永遠に記憶されている。