●「ロープの反動を利用した攻防」というプロレスのなぞに関する『1・2の三四郎』西上馬之助の説明とは?

末尾ルコ「プロレスと漫画の話題で、知性と感性を鍛えるレッスン」

小林まことの漫画『1・2の三四郎』を最終回まで読み続けたか否かは判然としない。
しかし少なくとも、読んでいる最中はプロレスファン、特にアントニオ猪木ファンとしてはワクワクする作品だった点はいまだ記憶に新しい。
作者の小林まことのプロレス理解、そしてリスペクトが非常に好ましく、しかも漫画としてもとてもおもしろくできていたので文句なしだった。
『1・2の三四郎』の登場人物の一人に西上馬之助という男がいて、高校のレスリング部に所属しているのだが、この馬之助の描き方が最も印象に残っている。
「アマレス」という、当時の日本のティーンエイジャーにとって、空手や柔道などと比べても、極めて地味な格闘技が、「実は非常に強い格闘技」として描かれている。
現在総合格闘技(MMA)の世界でアマレスの技術がいかに実戦的かつ効果的かが証明されているが、小林まことにそこまで正確に予見するだけの想像力があったとまでは思えないが、それにしても「アマレスは強い」ことを明確に表現した先駆的漫画であると見ることもできるだろう。

『1・2の三四郎』の最盛期は漫画としての充実度も高く、ギャグを含めて記憶に残るシーンも数多いが、とりわけプロレスファンとして忘れ難いのが、

「ロープの反動を利用するというプロレスのお約束に関する西上馬之助の説明」だ。

要約すると次のような説明となる。

「普通に相手レスラーをロープへ振ろうとしても、動くわけがない。まず相手の身体のバランスを崩し、踏ん張れない状態にしてからロープへ振るのだ」

この説明が「事実ではない」であろうことは、普通のプロレスを観ていれば分かる。
レスラーにもよるけれど、普通は「相手のバランスを崩す」という過程はなく、(ロープへ飛ばすぞ)というタイミングで、相手レスラーが走り出すのがお約束のムーブなのである。
しかし『1・2の三四郎』は「崩し、振る」という過程の画が見事なまでに説得力があり、(ひょっとしたらそういうこともあるのではないか)と想像させてくれた。
記憶に残る、「画と説明の見事な連動」シーンだった。