●異種格闘技戦の名作「猪木VSウィリー」の前に行われたお色気グラビア『GORO』の「猪木ディスり対談」や『空手バカ一代』の楽しいお話。

末尾ルコ「プロレスと格闘技の話題で、知性と感性を鍛えるレッスン」

アントニオ猪木が最盛期を遙かに過ぎてから行った「異種格闘技戦」・・・例えばレオン・スピンクス戦やショータ・チョチョシビリ戦などは、かつて日本全国の多くの青少年を興奮の絶頂に叩き込んだ、ウィレム・ルスカ戦から始まって、ウィリー・ウィリアムズ戦に至る一連の試合を知っている者にとっては物悲しい内容でしかなかった。
そんなわけで、多くの猪木ファンにとって「猪木の異種格闘技戦」は「ウィリー・ウィリアムズ戦まで」なのだ。
などと書いていてちょっと確認のために検索チェックしたら、「猪木vsウィリー」って、平成にもやってるんですね。
そんなこと、知りませんでした。いや~、調べてみるもんだ。
もちろん「ウィリー・ウィリアムズ戦まで」というのは平成の方ではありません。

と言うわけで、「昭和の猪木VSウィリー・ウィリアムズ」はなんだかんだでとてつもない盛り上がりだったことは、いまだに「プロレスのリングであれだけ殺気立った雰囲気はなかった」と語られている通り、試合前は(ひょっとしたら、どちらかが死ぬのではないか)と想像させるほどの尋常ではない緊迫感が醸成されたという意味では、「日本プロレス史上の傑作」の一つに挙げることに躊躇はない。

しかし「ウィリー・ウィリアムズ」と言っても「一空手家」であって、普通であれば「関係者以外は知らない」で当然なのだが、当時の青少年の間ではかなりの知名度を持って浸透していた。
その理由はもちろん『少年マガジン』に連載されていた梶原一騎原作『四角いジャングル』が、当時の格闘技界(?)やプロレス界について虚実織り交ぜて描いていたからだが、それ以前にかなり多くの少年たちは、同じく梶原一騎原作の『空手バカ一代』を真に受けまくって読んでいたという前提がある。
『空手バカ一代』の影響によって、日本の少年の多くは、「極真空手こそ史上最強」と信じていたからこそ、国内で知らぬ者のないプロレス界の大スター アントニオ猪木との対戦が異常に盛り上がったわけなのだ。
さらにお色気グラビアが売り物の雑誌『GORO』において、極真関係者たちによる「猪木ディスり対談」もプロレスファン、極真ファンなどの間で大きな話題となった。

試合は結果的にはドローとなったのだが、極めて殺伐とした雰囲気の割には穏当な内容だったと、現在観返すと感じられる。
試合後も梶原一騎先生によ、「猪木はリハーサルでウィリーに会った時、ガタガタ震えていた」的発言など、様々な謎を今に至るまで残しているが、実はわたしが最も強く印象に残っているのは、わたしの周囲にかなりいた、

『空手バカ一代』の内容を100%信じていた少年たちである。

そりゃあ、あの漫画の内容がすべて事実としたら、猪木に勝ち目はなさそうだけれど、信じますかね、あの内容。
彼らが現在、情報弱者として人生を間違っていようがいまいが、わたしの知ったことではないが。