●驚くべき美声、田川寿美の「浜辺の歌」、そして耽美的なまでの、若き日の由紀さおり。

末尾ルコ「音楽の話題で、知性と感性を鍛えるレッスン」

山田姉妹も大活躍の『由紀さおりの素敵な音楽館』2時間スペシャルに田川寿美も出演していたのだが、この

田川寿美、美声である。

博多人形を思わせる可愛らしい顔だちと小柄な体、そして持ち歌の中でも軽快な曲想の場合はフレキシブルでかつデリケートな所作を交えながら小唄調で歌う。
ところがいざシリアスな曲想を歌唱するとなると、(一体どこからこんな豊かな美声が生まれるんだ?)と驚くような声を聴かせてくれる。
件の『由紀さおりの素敵な音楽館』2時間スペシャルでは、日本の叙情歌として、「浜辺の歌」を独唱してくれたのだが、これがまた絶品なのである。
「浜辺の歌」の中にそもそも含まれる、美しいメロディと歌詞が田川寿美の絡み付いてくるような粘りと品格と厚みのある美声により、そのポテンシャルを限界以上に発揮させられていく。
そして歌う姿もまた見事だ。
楽しい歌は楽しく可愛らしく歌える田川寿美だが、「浜辺の歌」のごとき伝統を持つ美しい曲に対しては、直立不動の姿勢で口の開き方も正面切っての正統派。
何よりも歌う姿に悲愴美さえ醸し出ているのが素晴らしく観応えがある。
歌手は「歌」が第一。
しかし「ステージで観客に観ていただく存在」である以上、「ステージングの魅力」も大きな要素になるのは当然である。

ところで『由紀さおりの素敵な音楽館』で素晴らしい番組を提供してくれてますます有り難い由紀さおりだが、現在の彼女はとても包容力のある雰囲気の、誰もが(この人とお話したい)と思ってしまう素敵なご婦人という感なのだが、若い頃の姿を見ると、これまた独特の美を醸し出していることに驚かされる。
若い時代の由紀さおり・・・もちろん現在よりもかなり細く、頬のラインもシャープである。
そして持ち前のやや細い目の面立ちを生かした化粧法や、その品格ある歌いぶり・・・あたかも平安時代の貴婦人が現代に蘇り、わたしたちの眼前で歌っているかの如きではないか。
若き日の由紀さおり・・・日本的耽美の世界の体現者でもありさえしていたわけだ。