●名曲、「名オリジナル」とは何か?ちあきなおみ、瀬川瑛子「矢切の渡し」、あるいは「アクロス・ザ・ユニヴァース(Across the Universe)」カヴァー。


末尾ルコ「音楽の話題で、知性と感性を鍛えるレッスン」

原曲(オリジナル)がなければ、カヴァーも存在しないわけで、その意味では、「オリジナルを超えた」という言い方はおかしいのだけれど、例えばビートルズの「アクロス・ザ・ユニヴァース(Across the Universe)」なども原曲自体素晴らしいと、比較的ビートルズが苦手なわたしでも思うけれど、カヴァーでも素晴らしい曲と化しているものが実に多い。

YouTubeで「Across the Universe」を検索すると、ビートルズの外に、カート・コバーン、フィオナ・アップル、デヴィッド・ボウイ、あるいはステージで披露された宇多田ヒカルらのカヴァーがズラズラと出てくるが、どれも「オリジナルが凄い」からこその傑作となっている。
が、オリジナルも含め、予備知識なしでただ単に並べてみて、「どのヴァージョンが一番凄いと思うか?」と問われたら、わたしはどれを選ぶだろうか。
デヴィッド・ボウイを選ぶ可能性が高いし、おそらくオリジナル・ヴァージンは選ばないだろう。
特に山田姉妹を知ってから、彼女たちはカヴァーを歌うことが多いから、そして「オリジナルとはまた別次元の凄い歌唱」をするわけで、今、あらためて「歌、あるいはオリジナルの歌とは何か」について深く考えている。


ところで日本レコード大賞など、日本の音楽賞がその権威と社会的注目度をどんどん下落させてきた要因だけれど、もちろん単純に語れる話ではないが、私の考える一大要因は、

「多くの日本人の認識が、ヒット曲=名曲となっており、音楽賞もその考えに追随してきたから」である。

対して、設立当初は馬鹿にされていた日本アカデミー賞が現在は一定の権威と価値をを持っているのは、「ヒット作でない映画にも素晴らしいものがある」という「当然の認識」を授賞に大きく反映させてきたことが大きいのではないか。
もちろん日本アカデミー賞の授賞にも、今までかなり(何だ、これは!)と失笑するようなものもあったけれど、近年はかなりバランスが取れてきたように思う。

いったい、名曲とはどのようなものなのか?

例えばわたしの感覚では、「矢切の渡し」は戦後日本ポピュラー音楽界が生み出した屈指の名曲だと思っている。
そしてその名曲の屈指の歌い手が、それを大ヒットに導いた細川たかしよりも、瀬川瑛子、そして作曲の船村徹が絶賛したちあきなおみだと思っているが、二人の歌唱を聴き比べてみるのは、誰にとっても大きな悦びとなると思うのだが、いかがだろうか。

瀬川瑛子「矢切の渡し」https://www.youtube.com/watch?v=VrSfxIQ7TaU
ちあきなおみ「矢切の渡し」https://www.youtube.com/watch?v=opDT41S8Wno