●『前田日明が語るUWF全史』の本としての不思議さに対する感想と『ニッスイ さば缶詰味付』の感想である。

末尾ルコ「プロレスと食の話題で、知性と感性を鍛えるレッスン」

さて、『ニッスイ さば缶詰味付』である。
「味付」という名前だけれど、別にペペロンチーニ味や抹茶味がついているわけではない。
「味付」とネーミングされている場合は普通醤油味である。
オフィシャルサイトで『ニッスイ さば缶詰味付』を見ると、「丸大豆しょうゆと塩こうじ」を使っていると記されている。
正直なところ、わたしの味覚では、(うむ、さすがは丸大豆しょうゆと塩こうじだわい!)とポンと手を打つわけにはいかない。
醤油を買う際も、スーパーの棚に並んでいる中で最安値を狙う有様であるほどに。
サバ自体の食感は先日の『さば味噌』と同じようにしこしこと噛み応えがある。
ところが今回は一部、とろりと舌の上でとろけるに近い感覚もあり、やはり生き物を商品化しているのだから、同メーカーのサバ缶であっても個体差があって当然だと実感する。
「味付」のお味の方は、比較的淡白であっさりと食べられる。
これまた同メーカーの『さば味噌』と同じで、ふくよかさや奥行きはさほど感じられないが、朝食の一品に加えるには相応しいストレートな味わいである。

さて、『前田日明が語るUWF全史』という本を読んだのだが、これは昨年からプロレスファンなどの間で話題になっていた柳澤健『1984年のUWF』に対する反証本として出版されたというのだけれど、わたしははまず、この内容で河出書房新社から出版されているのに驚いた。
河出書房新社は文学関係の書籍のイメージが大きく、もちろんわたしの部屋にも多くの同社出版本が並んでいたり転がっていたりする。
もちろん河出書房新社がプロレスに関する本を出版するのは一向に問題ないが、『前田日明が語るUWF全史』の場合は書籍として非常に不細工というか、最初からごく一部のマニア相手にしか読まれないこと請け合いという内容である。
なにせ『1984年のUWF』を受けての反証本だけに、同書からの引用が頻繁に出てくるし、それに対して「ここは間違っている」「筆者論旨は目茶目茶である」といった内容の詩的、いや指摘が連発されるのだ。
それだけでなく、他のプロレス本や格闘技本からの引用も頻繁で、もちろん前田日明の談話も出てくるのだけど、本全体から見ればさほどの多くはない。
『前田日明が語るUWF全史』という書籍タイトルと内容がかなり乖離していると、わたしが最も感じたのがその点だ。

で、内容についてだが、わたしには『1984年のUWF』と『前田日明が語るUWF全史』のどちらがより正しいかの判断はつきかねるのだけれど、珍しく前田の具体的な話の内容に説得力は感じた。