●末尾ルコの幼年期、犬に追い駆けられ、貸本の『タイガーマスク』や『フータくん』で充実した午後を・・・。

末尾ルコ「個人的昭和史の話題で、知性と感性を鍛えるレッスン」


わたしが自分で歩いて、自分一人で外出を許されたのはいつからだったろう。
近所の保育園へは一人で歩いて通っていたから、もちろんその時期には許されていたはずだ。
小学校へ進学するまではその保育園に通っていた。
ただ、保育園より少し西へ行った場所に家のある、両親の知人の「おばさん」に預けられていた時期がある。
預けられていたといっても、学校教員の両親が帰宅するまでの間だったはずだ。
その家のまたほんの少し西に、小学校3年くらいまでわたしの中では「一番の親友」と位置付けていた男児の自宅があったし、その周辺によく一緒に遊ぶ「友人」たちの家があった。
ここでわたしは、「親友」だの「友人」だのという言葉は何なんだろうと感じはするけれど、その点について今回は深く掘り下げたりはしない。
ただその周辺に住んでいて、毎日のように遊んでいた子どもたちとは、わたしが中学へ進学した時点で既に誰とも没交渉になっていた。

保育園へ登園中の生涯忘れられない思い出がある。
犬に追い駆けられたのだ。
野良犬だったのか、近所の飼い犬だったかは覚えてないが、その犬と目が合い、どうも嫌な予感がし、足早に去ろうとすると、犬が追い駆けてきた。
走りながらわたしは泣き出したはずだ。
が、その顛末で記憶しているのはそこまでであり、結局わたしとその犬にどのような決着がついたかまでは覚えてない。
その夜、わたしの両親がその件でかなり騒ぎ、保育園のスタッフが謝ったりしたことは記憶している。
実はそれ以来、今に至っても、わたしは犬が苦手である。
どんな犬であっても、噛みつきそうな気がしてしまうのだ。

小学校はわたしの家の校区に属する市立へ進学したのだが、子どもの脚で、徒歩で片道30分程度要した。
それが普通だったので、特に苦にはしてなかったが、けれどやはり夏場の下校時の照りつける高知の日光はきつかった。
歩きながら、(早く家へ着かないか・・・)と思い続けたけれど、走ったりすると余計に熱くなるし、そもそもわたしは走りが得意ではなかったのだ。
子ども時代から少年時代のわたしのとってとても大きかったのが、自宅の南隣りにある「Tさんの店」だった。
「T」というのはその店を運営している「隣のおばさん」の苗字であり、正式な店舗名があったかどうかは定かではない。
その店は、「自宅兼店舗」であって、道路に面している土間に商品を陳列していた。
売っていた子ども向けおもちゃや駄菓子も実に魅力的だったが、わたしにとっては特に貸本漫画が重要だった。
小さい頃はそうそう親に「漫画、買って!」などとは言えず、「Tさんの店」で借りた『タイガーマスク』や『オバケのQ太郎』、『フータくん』などで、わたしは日々充実した時間を過ごしていたのだ。