●多摩幸子、和田弘とマヒナスターズ「北上夜曲」の美しきイマージュ、あるいは市川由紀乃の声はヴァイオリン?

末尾ルコ「音楽の話題で、知性と感性を鍛えるレッスン」


映画『モスラ』が公開された1961年のヒット曲の一つに、多摩幸子、和田弘とマヒナスターズの「北上夜曲」があって、これがなかなかに素晴らしい。

北上夜曲 和田 弘とマヒナスターズ&多摩幸子 UPB-0037(https://www.youtube.com/watch?v=vo2yTKQKK7U

この歌のように悠々たる河の流れに身を委ねるような心地よさをもたらしてくれる曲想は近年ありませんな。
聴いていて、(自分は永い時間の中に存在している)と想像させてくれる。
そんな歌詞であり、メロディであり、ハーモニーだ。

『新BS日本の歌』を毎週観ていると、必ずと言っていいほど未知の演歌歌手が出演してくる。
彼ら彼女らはつまり(今のところ)売れてない演歌歌手であって、デビューして間もない若手の場合もあるけれど、多くは中年以降の人たちだ。
一体演歌歌手と呼ばれる人たちは日本にどのくらいいるのだろう。
「非常に多い」ことは分かっていて、そのうちの大部分は生涯ほぼ無名に終わる。
そんな人生はそんな人生でいいのかもしれないが。
「演歌歌手」というもの、基本的には「歌が上手い」人がなっているので、「売れてない演歌歌手」も歌は上手い。
ところが明らかに「売れている歌手」たちとは大きな差があって、(なるほど、これならなかなか売れないのも無理はない)と納得してしまう場合がとても多いものなのだ。
もちろん、「売れない理由」には、「楽曲に恵まれない」「容姿に魅力が乏しい」などの要因もあるだろうけれど、やはり演歌は歌で圧倒すれば、生き残っていけるのではないか。

BS朝日の『人生、歌がある』で、市川由紀乃が「ひばりの佐渡情話」を歌っていた。
市川由紀乃は40代前半だが、50未満の演歌歌手の中では明らかに、歌のみで圧倒している。
それは前々から感じていたのだけれど、「市川由紀乃が「ひばりの佐渡情話」を歌っているのを聴きながら、その歌声を(まるで、ヴァイオリンだ)と感じた。
市川由紀乃より10歳ほど年下の丘みどりではまだまだこの域には遠いし、生涯を懸けて精進しても、この域に達するかどうかは分からない。
あるいは30代後半の川野夏美を見ても、年齢的には市川由紀乃に近いのだけれど、どうしても「声を張る」歌唱が前面に出過ぎてしまっている。
「声を張る」だけでは、決して超一流の域には届かないのだけれど、丘みどりにもまだその傾向がある。

いや、と言うか、「歌の世界」、突き詰めれば突き詰めるほど、深くおもしろくなってくる。