●新日本プロレス米国進出失敗?かどうかよりも、映し出された「カウ・パレス」~「創造力と想像力」

末尾ルコ「プロレスの話題で、知性と感性を鍛えるレッスン」

サン・フランシスコのカウ・パレスで新日本プロレスが興行を打ったのが7月7日。
観客動員や試合構成など「失敗」だったとも伝えられているのだが、現実問題としてはWWEの牙城に喰い組むのは困難だろう。
もちろん挑戦するのは素晴らしいことだが。
この日のカード、セミファイナルがIWGP USヘビー級選手権試合 ジェイ・ホワイトVSジュース・ロビンソン、メインがIWGPヘビー級選手権試合ケニー・オメガVS Codyと、日本人レスラーが絡まなかったことも米国進出の難しさを示している。
現在はネットで世界中の試合を観られるので、それはもちろんプロレスに限らずあらゆるスポーツについて言えるのだが、米国に新日本プロレスも少なからず存在するだろう。
が、それはおそらく「米国のコアなプロレスマニア」に留まっている。
WWEの試合ぶりがいかに現代的・ゲーム的であっても、それは米国プロレスの長い伝統を経てのものであり、そこへ新日本プロレスが割り込んでいくは至難の業であることは間違いない。

ところでこの新日本プロレス米国興行が行われた会場がサン・フランシスコのカウ・パレス。
プロレスファンにとっては、

ルー・テーズがレオ・ノメリーニに反則負けを喫し、「連勝記録」が「936」で途切れた場所として知られている。

ルー・テーズの「936連勝」はプロレスファンの間で知らぬ者はない、と言いたいところだが、それは昭和のプロレスファンの話であって、今の「プ女子」とかはどうなのか、それは知らない。
そして「プロレスの連勝記録」であるから、「936」という数字にどれだけの価値や意義を見出していいかもなかなか結論はでないところである。
なにせこの記録、1948年から1955年の間に打ち立てられたというから、まず約8年間にどれだけ試合をしたんだという話になる。
ボクシングやMMAであれば普通チャンピオンは年間2~3試合というところだろう。

ただそうしたことよりもわたしは『ワールドプロレスリング』で映し出された「カウ・パレス」の外観、そして会場内の様子を見ながら不思議な気持ちになった。
子どもの頃、米国の有名レスラーが試合を行う会場というものは、プロレス誌などのごく僅かな情報を基にして心の中で膨張する・膨張させるものに他ならなかった。
そこはとてつもなく大きく深く、そして昏く・・・得体の知れない怪物たち、そして魑魅魍魎が跋扈する場所だった。
ところが2018年、カラー映像で映し出されたカウ・パレスの無味乾燥なこと。

「想像力と想像力」について考えさせられる瞬間だった。