●「性愛」について、山田洋次の言葉から考え、綾瀬はるかのスーツ姿を検証し、『釣りバカ日誌8』室井滋の見事なシーンを語りましょう。

末尾ルコ「エロティシズムと映画の話題で、知性と感性を鍛えるレッスン」

山田洋次は蒼井優との対談(NHK)で、

「女優にとってはベッドシーンなどよりも、〈愛している〉と告白する台詞などの方が恥ずかしいんじゃないだろうか」

という意味の話をしていた。
これはとても重要な発言だと思うし、わたしもほぼ同感だ。
つまり、「ヌードを見せる」「ベッドシーンを見せる」などで安易に「本物の性愛感情」が描けると思ってはならないということだ。
もちろん「本物の性愛感情」を描くために、『愛のコリーダ』のような本番を入れる必要もない。
『愛のコリーダ』は大島渚がそれなりの考えによって件のシーンを挿入(笑)したのであって文句を言うつもりはないが、淀川長治は同作品鑑賞後、「死ぬかと思った」と語っている。
淀川長治はその後の大島作品は褒めており、特に『マックス モナムール』は大絶賛していたことを付け加えておこう。

「性愛」の表現は昨今の日本では、テレビはもちろん、映画でもなかなか上等なシーンを見かけない。
わたしは、少し前に次のような文章をアップした。

・・・
テレビドラマ『義母と娘のブルース』の大きな見どころは、主演である綾瀬はるかのファッションだ。
「ファッション」といってもそれはシンプルそのもの。
ダークグレー(ブラック)のスーツ・スカート姿が基本で、トップスは白のワイシャツないしその上にスカートとセットのジャケットである。
もともと上背がありプロポーション抜群、膝下も長く真っ直ぐ伸びている綾瀬はるかのこの服装の似合っていることと言ったらない。
そしてこの服装の綾瀬はるかは、わたしにとっては女性の理想的外見の一つなのである。
もちろんエロティシズムの観点を含めて。

・・・

これは、「わたしにとって」と個人的嗜好の観点で述べているが、同様の感覚を持つ人は少なくないはずだ。
つまり、最先端のファッションでキメている人もカッコいいけれど、より強い性愛感情を惹き起こすのは、オーソドックスで清潔感があり、時に「やや硬め」の服装なのである。
それは男性から女性を見た場合だけでなく、女性から男性を見た場合でも多く同様の感覚を生むものだ。
いみじくも、ももクロの高城れにも「白シャツは正義♡.」とインスタグラムに投稿したというではないか。

映画『釣りバカ日誌8』の観どころの一つが、室井滋と柄本明が結婚するまでのエピソードなのだけれど、その中で驚いたシーンがある。
浜辺で浜ちゃんやスーさんと釣りをしていた二人だが、戯れている間に室井滋が倒れて仰向けになり、その上に柄本明がかぶさってしまう。
カメラはその刹那の室井滋の顔をズームアップするのだが、これだけ「性愛」を感じさせる表情は滅多にないほどの見事なシーンとなっていた。
脚本の山田洋次、監督の栗山富夫、そして室井滋自身の演技力などが総合された決勝のような一瞬だった。