●大坂なおみ記者会見検証~記者レベルの低さ、『ガラスの仮面』の「紫の薔薇の人」、そして「政治利用」を試みた『ハフィントンポスト』の酷い質問。

末尾ルコ「大坂なおみの話題で、知性と感性を鍛えるレッスン」

13日朝、全米オープンテニスで優勝した大坂なおみの「凱旋」記者会見があったのだが、記者の質問のレベルの低さは予想通り。

大坂なおみ帰国会見、テニスに無関係の質問にSNS上で疑問噴出(https://www.hochi.co.jp/sports/ballsports/20180913-OHT1T50074.html

ただ、会見時間が約30分で各社の記者が一つか二つずつ質問をする段取りになっており、「細かなテニスの質問をしても・・・」という状況ではあった。
「30分」「凱旋(ある意味祝賀)会見」「大坂なおみはハードスケジュールで疲れている」などの状態を考えれば、「無難な質問」が中心であることをさほど責めようとも思わない。
そして全米オープンテニス優勝後、テレビメディアを中心に急激に「なおみ節」と名付けられた「おもしろコメント」のイメージが膨張してしまったため、今回の会見でもそれを意図的に引き出そうとする質問がいくつも見られた。
ただ、大坂なおみの「おもしろコメント」の多くは試合後に短時間で行われるオンコートインタヴューで出てくるもので、海外でも正式な記者会見では(当然ながら)シリアスなやり取りが中心である。
それでも「好きな日本語」を尋ねられて、「むらさき」と答えるなど、意図せずとも期待に応えるナチュラルな愉快さが彼女にはある。
これは、わたしは知らなかったのだが、漫画『ガラスの仮面』の「紫の薔薇の人」というキャラクターに由来しているのだという。

さて、今回件で大坂なおみに対してかけられた質問の中でわたしが一番酷いと思ったのが、リンクした『スポーツ報知』の中でも取り上げられているが、『ハフィントンポスト』の、

「海外の報道で古い日本人像を考え直すきっかけになっているとあるんですが、ご自身のアイデンティティを含めてどのように受け止めているか」(『スポーツ報知』より)

というものだ。

『ハフィントンポスト』の日本版は『朝日新聞』によって担当されているのだが、そしてわたしは「『朝日新聞』を全否定」とまでしよようとは思わないけれど(同様に、『産経新聞』を全否定」もしない)、このような質問を正義面してするから多くの日本人に毛嫌いされるのである。
この質問の内容自体も、時と場と相手によっては有効だろう。
しかし一つの質問に対してせいぜい1~2分しか答える時間がないような記者会見で、人種や国籍、国家意識などに関する質問を、しかも20歳の若い女性アスリートに対する「祝賀」的空間で行うのはほとんど「言葉のテロ」行為だ。
大坂なおみの言葉の選び方がほんの少しでもおかしければ、大バッシングにもなりかねない微妙な質問である。
この『ハフィントンポスト』の記者の意図しているのは言うまでもなく、同誌の「主張」に同意するように大坂なおみを誘導し、「自分らと同じ主張を持つヒロイン」に仕立て上げようというところだろう。
わたしはもちろん大坂なおみに対して「日本人じゃない」などと言うお粗末な考えには徹底して反対していくが、『ハフィントンポスト』のように「政治利用」を試みる動きにも反対していく。
ちなみに同質問に対して大坂は、「自分は自分である」と実に見事な解答をし、「もう一つ質問を」と食い下がる『ハフィントン』の記者を司会者が「もうけっこうです」と打ち切ったのはよい対応だった。
さて同記者、「もう一つ」が許されたのなら、何を言っていたのだろうか。

この件に限らず、日本における記者会見やインタヴューの多くの低レベルは放置しておくべきではないだろう。