●なぜ日本人に苦手の中東での「サウジ人ジャーナリスト暗殺事件」が日本でこれだけ報道されているのか?~あるいは「ロス疑惑」異常報道との共通点。

末尾ルコ「マスメディア批判で、知性と感性を鍛えるレッスン」

この10月、地上波テレビメディアで異例の事態が起こっている。
国際情勢にはまるで興味が無くなった日本で、何と世界の大方のメディアがトップ扱いで取り上げているのと同じニュースを、日本のニュース番組が、それだけではなくワイドショーまでがトップクラスの比重で放送しているではないか。
そう、トルコ・イスタンブールのサウジアラビア総領事館で発生したサウジ人ジャーナリスト暗殺事件だ。

これはまさしく世界的大ニュースであり、しかし日本のメディア報道と「世界的大ニュース」が一致することは極めて稀なのである。
もちろん欧米主要国は彼らの国から見ての重大ニュースを優先して取り上げるのであって、すべてそれに追随する必要はない。
最近でこそ欧米メディアは北朝鮮情勢を大きく取り上げ始めたが、数年前まではほとんどスルーという状態だったわけで、彼らの報道も大きな歪みを持っているのである。
といったことを踏まえた上でも日本のメディア報道の歪みは欧米の比ではなく、国際的重大ニュースを取り上げないどころか、国内ニュースでも(こんなことをニュースで延々とやる必要ない!)と言うべきネタが中心となっている。
2018年で言えば、日大アメフト部の悪質タックル、女子レスリングのスキャンダル、ボクシング山根会長云々についてなどだ。

ではなぜ今回のサウジ人ジャーナリスト暗殺事件が日本でも大きく取り上げられているのか?
もちろんにわかに日本のメディアが、(このままでは報道機関としての矜持が保てないぜ!)とばかりに反省し、改善した・・・わけではないだろう。
結局この事件は、「日本人にもとても分かりやすい構図に単純化できる」ことがポイントだったのではないか。
もちろん実はまったく単純ではない。
幾多の国家間の複雑な利害関係と宗教的問題が絡み合った事件なのだけれど、単純化しようと思えば、

「暗殺された人」ジャマル・カショギ氏
「暗殺への関与が疑われている人」
(サウジの)ムハンマド皇太子

そして、同事件に対する動向が注目される人物として、
トランプ大統領
(トルコの)エルドガン大統領

と、概ねこの4人の人物にフォーカスしての「劇場化」が可能で、しかも4人とも十分に「テレビ映え」するのである。

ただ、この度、日本人の最も無関心にして苦手な中東の事件にスポットが当たったのは悪いことではなく、この機会に少しずつでも中近東情勢について気にし始める人が増えてくれればいいのだけれど。

書きながら思い出したのだが、かつて「ロス疑惑」報道というとてつもないマスメディアフェスティバルがあった。
わたしの感覚では、(言葉は悪いが)「よくある殺人事件の一つ」に過ぎなかったのだが、これまた「テレビ映え」する要素が満載で、まさしく現代史に残る「異常報道」の一つだった、似たようなことは今でもテレビで平気に起こっている。