●『愛染かつら』がムーブメントを起こした昭和13年のお話から、『男はつらいよ』新作出演の後藤久美子の80年代についてである。

末尾ルコ「映画の話題で、知性と感性を鍛えるレッスン」

昭和13年と言えば1938年で、1月には岡田嘉子がソ連に亡命している。
3月には、ナチス・ドイツ、オーストリアを併、5月には国家総動員法が施行され、岡山でいわゆる「津山30人殺し」事件が生じている。
そうか、あの事件は昭和13年だったのか。

などと言うのは、田中絹代主演の映画『愛染かつら』の公開が昭和13年。
『愛染かつら』は日本に一大ムーブメントを起こしたことで知られるが、当時のそんな雰囲気を醸成した社会とはどんなものだろうと、とても興味がある。
昭和13年ですからね。

さて2018年の映画界の話題として、『男はつらいよ』の新作制作発表が行われたことがあるけれど、そのキャストの一人として、後藤久美子が発表された。
渥美清亡き後の新作として話題を呼ぶために、このキャスティングはいいものだと思う。
後藤久美子としてはひょっとしたら(娘の売り込みも)という頭もあるかもしれないが、あの娘の外見は日本ではウケないだろうし、後藤久美子はフランスではネームバリューがないから、フランスでの売り込みも難しいだろう。

後藤久美子が80年代から90年代にかけて、日本の芸能界ではなかなかのネームバリューだったのを記憶している人は多いだろうが、「すごく綺麗」というのが一般的評価だったからこそ、様々な話題を提供していたのだろうけれど、わたしは「すごく綺麗」と感じたことはなかった。
後藤久美子の外見についてわたしが率直に感じていたのは、「顔立ちがいい」だった。
「顔立ち」は確かにいいのです。
これは間違いはない。
しかしその「極めて整った顔立ち」に惹かれるかどうかと言えば、特にそんなことはなかった。
それは、「綺麗過ぎて現実感がない」とかいう感覚ではなく、なにかこう、魅惑に欠けていたと、当時のわたしは感じていた。
ただ、後藤久美子出演の二本のテレビドラマはおもしろく観ていて、それは、

『ママはアイドル!』と『痛快!ロックンロール通り』である。

「~である」と言い切るほど大袈裟な話をしているわけではないが、やっぱりちょくちょく使いたいよね、「~である」。

『ママはアイドル!』、『痛快!ロックンロール通り』ともにゴクミの単独主演ではなく、W主演ドラマであり、前者は中山美穂、後者は沢口靖子だった。
中山美穂、沢口靖子ともにゴクミと組んだ両作品がわたしにとっての、彼女たちのベストワークであり、その後はしばらくして二人とも、(わたしにとって)「できたら観たくない女優」となってしまったので、語るべきことはないが。
後藤久美子については「国民的美少女」と呼ばれて急激にメディアの話題の的になってきた時期に、強気の発言などでさらに話題を呼び、『ゴクミ語録』なんていう本が出版され、『笑っていいとも!』に登場した時も、「強気」風の発言をしたりして、(あ~あ)と辟易したこともあったが、山田洋次監督に惚れ込まれている以上、わたしが当時感じていなかったサムシング(←なぜ英語? 笑)を持っていたのかもしれないと、ゴクミ出演『男はつらいよ』鑑賞は愉しみとなっておりんす。