●『SWITCHインタビュー 達人達(たち)』~「岩下志麻×下村一喜」で語られた映画『疑惑』と桃井かおりとの貴重な「二大女優対峙」。

末尾ルコ「映画の話題で、知性と感性を鍛えるレッスン」

『SWITCHインタビュー 達人達(たち)』~「岩下志麻×下村一喜」でも取り上げられていた映画が『疑惑』で、これおもしろかったなあ~。
下村一喜は岩下志麻の前でこの作品の物真似までしていた。
何度も何度も繰り返し鑑賞しないとできない所業ですね。

『疑惑』とは松本清張の原作を野村芳太郎が監督。
桃井かおりと岩下志麻がダブル主演のような形で、桃井かおりが殺人事件の被疑者、岩下志麻が担当の弁護士を演じている。
岩下志麻よりも桃井かおりが10歳年下だが、70~80年代の桃井かおりの圧力は極めて大きなものがあり、日本映画黄金時代を知る大女優岩下志麻ともがっぷり四つで火花を散らしている。
「二大女優が対峙し、火花を散らす」
こんなシチュエーションは、邦画史上はもちろん、世界映画史上でもそうそうはない。
大物女優が並び立ち共演というのは映画として極めて難しい創作なのである。
もちろん小津安二郎の映画には一本の作品に多くの名女優が出演していることが多かったが、しかしあくまで「一人の主演+何人かの名女優が脇を固める」スタイルだ。
ハリウッドでも「二大女優が対峙」という作品は容易には思いつかない。
傑作の誉れ高いリドリー・スコット監督の『テルマ&ルイーズ』は、スーザン・サランドンとジーナ・ローランズ共演だったが、これはバディムービーであって、「対峙」というスタイルではないし、サランドンとローランズは当時のハリウッドでは、「二大女優」というほどのポジションではなかっただろう。
そういう意味でも桃井かおり&岩下志麻対峙の『疑惑』は極めて貴重な作品なのだし、初めて観た時は二人のカッコよさにワクワクした。
『SWITCHインタビュー 達人達(たち)』~「岩下志麻×下村一喜」で同作品に触れた岩下志麻は、
「かおりちゃんは自分のアイディアで作った台詞を持ってきて試してみるので、とてもおもしろかった」
という意味の話をしていた。
野村芳太郎監督の現場でそのようなことが許されるのだろうかという疑問はあるが、現に岩下志麻が語っているのだから信憑性は高い。

桃井かおりは田中絹代らと並び、「女優で映画監督もやった」極めて稀な人でもある。
ハリウッドでも女優が監督をすることは非常にハードルが高く、最近でもアンジェリーナ・ジョリーなどが挙がるくらいだ。
日本では男優にとっても監督はハードルが高く、役所広司などこれまた稀である。
その点フランスは少なからぬ女優が映画監督もやっているが、そうしたお話はまた後日にしよう。
桃井かおりは2006年にアメリカ合衆国映画俳優組合(SAG)に加入しており、外国映画の出演も多い。