●菅田将暉のファンである20代カフェスタッフは、どうして『ディストラクション・ベイビーズ』や『あゝ、荒野』を観ないのか~「バランスの取れた映画鑑賞方法」の薦め。

末尾ルコ「映画の話題で、知性と感性を鍛えるレッスン」

菅田将暉が当代トップの20代男優だということに異論のある人は・・・いるかもしれないけれど、客観的に見れば、「トップクラスの一人」ではなく、「トップ」と言い切っても違和感を持つ人は少ないのではないか。
それだけ菅田将暉の活躍はここ10年ほどの若手男優の中では突出している。
もちろんすべてが素晴らしい作品というわけではないが、既に約30本の映画へ出演しており、その多くは主演であるし、ハードなバイオレンスシーンやベッドシーンも渾身の演技で取り組んでいる。
広いファン層からアイドル的な人気もありながら、ここまでやる若手俳優など他にはそうそう見当たらない。

菅田将暉出演映画の中でわたしが気に入っているのは次の5本。

『共喰い』
『ディストラクション・ベイビーズ』
『二重生活』
『セトウツミ』
『あゝ、荒野』

『あゝ、荒野』なのだけれど、これちょっと惜しかった。
大傑作になる可能性はあったけれど、過剰な部分が少なくなかった。
芸術やエンターテインメント表現の中の過剰は時に強力な創作に繋がることもあるけれど、『あゝ、荒野』の場合は逆の目が出ていた。
それでも観応えは十分の作品だが。

ところで行きつけのカフェの若い女性スタッフの一人。
20代だと思うけれど、菅田将暉のファンである。
とは言え別の日には、「吉沢亮になりました。あの顔が一番好きなんです」とか、また別の日には、「あ、菅田将暉、好きですよ」
とまあこんな調子ではあるけれど、菅田将暉のファンであることに間違いはない。
が、例えばわたしが次のような質問をする。

「『ディストラクション・ベイビーズ』、観た?」
あるいは、
「『あゝ、荒野』、観た?」

するとこのスタッフ声を細めて、「いや、観てないス・・・」
で、わたしが、

「どうして観ないの?ファンなんでしょ!」と軽く追及すると、
「生々しいのはあんまり・・・」

と述べるのである。

要するにこの女性、好きな俳優の作品でも、

「生々しい内容、リアリスティック内容、暴力的な内容」のものは端から「鑑賞対象外」にしているわけだ。

う~ん、こういう人、けっこう多いのでは。
でもこの女性は「生々しい内容、リアリスティック内容、暴力的な内容」以外で、お気に入りの俳優が出演している映画はまめに映画館へ足を運んでいるので、平均的に本陣よりも遥かに映画好きと言えるわけだが。
しかしお気に入りの俳優が心血を注ぎ、時に命懸けで挑んでいる役を「端から除外」では俳優もやってられない。
もちろんその女性の気持ちが分からないわけでもない。
わたしとて毎日シビアでリアリスティックな映画やドラマを観たいとは思わない。
時にと言うか、しょっちゅう激烈アホ映画とか、エログロナンセンスとか、ゆるふわ愛され映画とかを観たくなることもある。
しかし・・・シビアでリアリスティックな映画無くては、鑑賞も熱が入らない。
件のカフェスタッフの女性のことだけでなく、このあたりの「バランスの取れた鑑賞」をぜひ多くの方に試みてほしいのだが。