●わたしと愛する猫たちと悲劇~山田洋次『家族』のスペクタクル、そして井川比佐志の最近作、笠智衆演じる「棺桶の中の死に顔」

末尾ルコ「猫と映画の話題で、知性と感性を磨くレッスン」

寒さも真っ盛りだというのに、このところ近所の猫が盛りがついて深夜にニャーニャーである。
近所の猫と言っても、ご近所さんが飼っている猫か、それとも近所に生息する野良猫かは分からない。
ただ、わたしの家の庭などにもかなり太った猫がよく来ている。
そして近所はご高齢の方々も多く、飼い猫でも避妊を施してない可能性がある。

わたしの十代、家には猫が多くいた。
家の庭にも多くいた。
猫が走り回っていた。
しかし当時は、少なくともわたしの家庭には、「猫の避妊」という概念はまったくなかった。
だから雌猫はまるで無制限に子猫を生んだ。
そうなると多くの悲劇が訪れるのである。

猫は今でも大好きだし、当時はそんなものではない。
人間以上に猫が好きだった。
しかしそれは常に悲劇と背中合わせだったのだと、今つくづく思い出す。

盛りのついた近所の猫は、たいがい深夜にニャーニャーやり始める。
今のところ睡眠の妨げにはなってはないが。


山田洋次監督の『家族』を観た。
1970年を舞台とした作品。

1970年の日本で、倍賞千恵子、井川比佐志の夫婦を中心とした家族が長崎から北海道を目指す旅に出る。
家族の目的は、北海道で開拓をすることだ。
井川比佐志の父が笠智衆で、夫婦の子どもたちも同行する。

井川比佐志は子どもの頃から、何となく好きな俳優だった。
晩年の黒澤明作品へ続けざまに出演している。
『乱』
『夢』
『八月の狂詩曲』
『まあだだよ』

凄い。

そして井川比佐志、今も健在である。
2010年以降の公開映画だけを見ても、こうだ。

『悪人』(2010年)
『草原の椅子』(2013年)
『春を背負って』(2014年)
『蜩ノ記』(2014年)
『くちびるに歌を』
『FOUJITA』(2015年)
『続・深夜食堂』(2016年)
『峠 最後のサムライ』

見ての通り、2020年公開予定の作品もある。
素晴らしい。

映画『家族』はまず、その映像のスペクタクル性に目を奪われる。
材木置き場も撮りようで十分スペクタクルになるし、当時の福山の埃っぽさ、大阪の、特に田舎から出てきた人間にとっての過酷な雑踏。
慣れている人は気づかないことが多いかもしれないが、東京や大阪の雑踏は、健康状態に問題がある人間にとっては凶器であり、猛毒となる。
そしてこの作品は、「家族」の中の二人もが無慈悲にも死んでいく映画でもある。
なのに山田洋次は一切の愁嘆場は作らない。
ヘンな表現かもしれないが、(あれっ、死んだの?)と感じてしまう素っ気なさなのだ。
これも人生の描き方の一つ。
そして「死んでしまう人」の一人、笠智衆演じる「父」あるいは「祖父」が棺桶の中に横たわっている顔」を映し出す。
もちろん名優 笠智衆は「遺体の演技」をしていることになるけれど、その唐突なシーンはまるで禁忌(タブー)破りのようにも見える。