●『家族』の倍賞千恵子の「美」は、人生経験を積まねば本当に理解できないのだろか~『男と女』の3作目は、80歳を超えたアヌーク・エーメとジャン-ルイ・トランティニャン。

末尾ルコ「映画の話題で、知性と感性を磨くレッスン」

倍賞千恵子については、ずっと「地味な実直な女優」と思い込んでいた。
なぜか?
やはり、「さくら」のイメージだ。
しかし不思議なことではある。
わたしが『男はつらいよ』シリーズをしっかり観始めたのはほんの最近のことだ。
なのに少なくとも高校時代には、「倍賞千恵子=さくら」というイメージは摺りこまれていた。
まさに人口に膾炙した「国民的映画シリーズ」と言えるだろう。
「国民的」という言葉も軽々に使われ過ぎて警戒しなければならないが、『男はつらいよ』クラスであれば、この言葉も違和感がない。

例えば最近鑑賞した山田洋次監督の『家族』にしても、わたしが高校時代であれば、このタイトル、このストーリー、なかなか鑑賞する気にはならなかったに違いない。
日本映画も観ていたけれど、山田洋次作品が鑑賞予定の候補に挙がることはなかった。
『太陽を盗んだ男』とか『セーラー服と機関銃』とか、松田聖子の『野菊の墓』とかは観ていたけどね。
山田洋次に関しては、わたしだけでなく、周囲の映画ファンの話題にも上って来なかった。
鈴木清純の話はよく出ていたけれどね。
何という視野の狭さ。
そして痛感するのは、

「人生経験を重ねたからこそ、見えてくることがある」
「人生経験を重ねなければ、見えないことがある」

という当然の真実。
だから今20~30代の人たちがいかにも(おれたちゃ、何でも分かってるよ)という言動をする時、(いや、ぜんぜんそうじゃないよ)と自信を持って言えるのだ。
もちろん、「若さ」への敬意も持っているけれど。

『家族』の倍賞千恵子の何と隙なく美しいことか。
いわば実に所帯じみた女の役。
ところが今、わたしが『家族』の倍賞千恵子を観て感じるのは、日本映画史上屈指の美しい女優の姿。
山田洋次の作る緻密な映像と、充実した共演者たちの中で、しかし倍賞千恵子の引き締まった美しい顔は常に浮き立つように画面に存在する。
まさに「民子3部作」、まさに「民子=倍賞千恵子」だ。
「役」と「俳優」が「=(イコール)」で繋がれる、最も幸福な出会い。

前にも書いたが、倍賞千恵子は、「ヨーロッパ映画史上最高の女優」と多くが認めるロミー・シュナイダーと顔立ちが似ている。
そして、「ヨーロッパ史上の女優」というテーマとなると当然出てくる一人が、アヌーク・エーメだが、何と

『男と女』の続編が、

フランスでは今年公開されるのだという。

いまだ全世界に新たなファンを生み出し続けている『男と女』は今回で3作目となるが、監督はもちろんクロード・ルルーシュだし、何と主演は、アヌーク・エーメ、ジャン-ルイ・トランティニャンと1作目から同じ二人。
二人とも80歳を超えているが、ヨーロッパ史上屈指の大スター、大俳優・・・。
これに興味を持たずにおられようか!