●メラニー・ロラン女優が映画監督をやる機会の少なくないフランス映画界、マリオン・コティヤール『愛を綴る女』の泉鏡花的展開を堪能しつつ、日本の状況も考える。

末尾ルコ「映画の話題で、知性と感性を磨くレッスン」

ニコール・ガルシアはフランスの女性映画監督である。
フランスには女性映画監督が多い。
あるいは、女優で映画監督をしている人も比較的多い。
特に目立つのは、例えばスター女優メラニー・ロラン。
35歳だが、既に何本かの長編映画を撮っている。

『Les adoptés 』
『Respire 』(2014年)
『TOMORROW パーマネントライフを探して(『Demain』)』(2015年) ドキュメンタリー
『欲望に溺れて(『Plonger』)』(2017年) 『ガルヴェストン(『Galveston』)』 (2018年)

メラニー・ロランは歌手としても活動しており、そのバイタリティは尋常ではない。

ロランよりも世代が上のニコール・ガルシアは72歳。
幾多の映画へ出演を続け、映画監督としても短編を含めると9本撮っている。
その最近作がマリオン・コティヤール主演の
『愛を綴る女』で、いわばアブノーマルな愛の物語だ。
アブノーマルと言っても、通常とは異なる性愛行為をテーマとしているわけではない。
あくまでマリオン・コティヤール演じる主人公の女の精神がアブノーマルなのである。
「どこまでがノーマルで、どこからがアブノーマルか」という論議については、ここでは触れない。

『愛を綴る女』の中でマリオン・コティヤール演じるガブリエルは1950年代の南仏に生きる女だが、恋愛に対して尋常でない妄想を抱いている。
そのため地域社会でスキャンダラスなトラブルを起こし、困り果てた両親は、実直なスペイン人男と無理矢理結婚させる。
愛のない結婚生活を送るガブリエルだが、腎臓結石を発症し、アルプスの療養施設で温泉療養を施すことになる。
このアルプスの療養施設のシーンがとても神秘的・幻想的なのだが、それはアルプス山中であるロケーションに加え、いつ建てたものかは定かではないけれど、ノスタルジックな建築物の魅惑が大きい。

投げやりな療養生活を送るガブリエルは、インドシナ戦争の退役将校アンドレと出会う。
アンドレを演じているのがギリシャ的美貌のルイ・ガレルで、「瀕死の病」に罹患しているという設定に合わせて痩せているのだろうか。
いかにも病的で、しかも耽美的だ。

で、『愛を綴る女』はこの後、泉鏡花的展開を見せてくれるのだが、同作品については今後もお話していくとして、日本における女性映画監督、あるいは女優が映画監督をするという件についても考えてみたい。
近年は女性映画監督も増えてきた日本だが、女優が監督をするというのはなかなかにハードルが高いのである。
すぐ思いつくのが、田中絹代。
これはやはりあの時代に映画監督をやったというのは、いかに歴史的大女優田中絹代とは言え凄いお話ですな。
そして、桃井かおり、最近ではなぜか黒木瞳がやっているが・・・。

もちろん政治家と同じで、女性の数だけ増やせばいいというものではない。
が、映画界全体の活力、創作力を高めるためにも、女性にもどんどんそんなチャンスがあるべきことも間違いないのであり、大きなテーマとして考えて行こうではないか!(←我ながら、雄々しいぜ!)