●オナニー、レイプ、殺人シーンを演じながらも、映画『天国の駅』の吉永小百合は・・・あるいは圧倒的雪国のロケ。

末尾ルコ「映画の話題で、知性と感性を磨くレッスン」

この2月はももクロのステージにも上がって多くの人の度肝を抜いた吉永小百合だが、ひょっとしたら吉永小百合は

「戦後日本芸能史上最高の人」

かもしれない。
いや、わたしは「戦後」という括りで縦横無尽に語れるほどの知識はないから、自信をもって言えるはずもない。
しかし、昭和から平成にかけて、ここまで長く「トップ」として活躍し続けている芸能人は他にはいないだろう。
そして平成が終わり、次の元号へと移っても、その年に主演映画公開予定の吉永小百合は、「3つの元号をトップとして生る」ことになる。
となれば、他にはいないのではないか。

ただ、この吉永小百合の特殊なところは、

「吉永小百合であるからこそ、その演技は深みへと辿り着かない」

考えてみれば、世界で最も不思議な大女優なのかもしれない。

『天国の駅』という映画がある。

戦後初めて日本で死刑を執行された女性をモデルにしているという。
女性の名は、「小林カウ」といい、その事件は「ホテル日本閣殺人事件」と呼ばれている。

映画『天国の駅』を、実はわたしはとても愉しんだ。
何よりもロケが凄い。
ロケ地は栃木県新那須温泉中心で、他県の温泉地でもロケをしているという。
それにしても『天国の駅』ほど美しく雪景色を描いた作品は滅多にないだろう。
雪に閉ざされた鬱屈的温泉場の情景が美しく、寒そうだが暖かそうにも見える。
映画の展開上何度となく出てくる、渓谷にかかる鉄橋の上を走る電車の姿も爽快にして抒情的だ。
作品全体のトーン、濃厚な映像とゆったりとしたテンポは、多くの横溝正史原作映画よりもずっと横溝正史的である。

監督は出目昌伸、脚本は早坂暁。
出演が、吉永小百合、西田敏行、三浦友和、津川雅彦、真行寺君枝など。
いずれも実にいい味を出しているが、とりわけハンディキャップを持ちながら、吉永小百合演じる主人公を慕い続ける男役の西田敏行は出色で、コミカルな西田を見慣れている目にとっては新鮮そのものに映るだろう。
そして吉永小百合はマスターベーションシーンも演じ、犯され、あらぬ場所に手を入れられる。

2時間強の映画作品として中だるみもなく、とても充実した鑑賞時間をわたしは過ごさせてもらえた。

が、「ふたりの夫を殺した女」を演じた吉永小百合なのだけれど、オナニーシーンもレイプシーンも殺人シーンも演じたにも関わらず、

「清純で無垢な吉永小百合」

のイメージはまったく揺るいでない。

もちろん監督や脚本家たちが、(吉永小百合が女性死刑囚を演じるのだが、どこまで深めたものか・・・)を思案した末の完成品なのだろうけれど、この内容でこの役を演じ切りながら、「深みへ向かわない」吉永小百合という大女優、その特異性にあらためて(すごいな)と感じた次第である。