●末尾ルコ「『キャロル』と出会ったテレーズは、最早俗悪には戻れない」。

末尾ルコ「映画で知性と感性を鍛えるレッスン」

ケイト・ブランシェットの「キャロル」造形に関して。
「キャロル」は恋愛映画であり、ハードボイルド映画だ。
特にハードボイルド的世界が映画の中から希薄になって久しい現在、『キャロル』の「キャロル」、つまりケイト・ブランシェットのハードボイルド的造形は圧倒的だ。
そして『キャロル』は、「美と愛の世界」を知ってしまった人間が、「美と愛の世界」の住人になってしまった人間が、そうそう元の世界へ戻れるものではないということを描いてもいる。
ルーニー・マーラ演じるテレーズには付き合っている男がいる。
若く優秀な男だけれど、その「優秀さ」は、「悪い意味での俗世」のものである。
テレーズの心情などお構いなしに、パリ旅行を結婚を求めるが、それ以前に、常に命令口調でテレーズに「アドバイス」する。
キャロルを知ってしまったテレーズにとって、最早そんな男の俗悪さは唾棄すべきものでしかない。
「唾棄すべきもの」と暮しを共にすることはできない。
当然のことだ。

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