●あまりに美しかった、アントニオ猪木の「ブリッジ・ムーヴ」について。

末尾ルコ「プロレスの話題で知性と感性を鍛えるレッスン」

実はわたし、かつてずっと、「アントニオ猪木はレスリングも超一流なのだろう」と思い込んでいた。
ここで言う「レスリング」とは、いわゆる「アマチュア・レスリング」のことである。
ある時プロレス雑誌で松浪健四郎が「猪木派レスリングができない」旨のコラムを書いていて、(え?そうなのか??)と非常に意外に感じたものだ。
現在ならばネットで調べれば、プロレスラーになる前の猪木に格闘技の経験がないことは一目瞭然だし、以前であってもそのような情報は目にしていたのだと思うけれど、どういうわけかわたしはずっと、「猪木はレスリングも超一流だ」と思い込んでいた。
しかし、「どういうわけか」と書いているが、実はその理由はわたし自身がよく知っている。

答えは、「ブリッジ」だ。

恐らくアントニオ猪木は日本プロレス史上、最も美しいブリッジをするレスラーだった。
そしてわたしは、ブリッジを得意とするレスラーは、「アマレスでも一流」と思い込んでいたのだ。
もちろんアマレスでもブリッジの技術は存在する。
しかし猪木が特にテクニカルな試合中に見せていたブリッジは、「試合の見せ場の一つ」としてのブリッジであり、「レスリングができる・できない」とはまったく関係ないものだった。
つまり猪木は、「美しく弧を描くブリッジ」に独自の価値を創造していたのだ。

猪木が首と両脚のみで支えるブリッジをしながら、手は上から圧し掛かる相手レスラーと組み合っている。
上から圧力をかける相手に対し、猪木はじりじりと首をマットから上げ、足腰と背筋の力だけで相手の上半身を持ち上げ、遂には立ち上がって、相手を倒す。
(何て、凄いブリッジ力なんだ!)といつもワクワクしていたものだ。
もちろん現在では、「上のレスラーの引き上げる力」抜きでそんなムーヴはできないことを知ってはいるが。