●歌はもちろん、その表情、所作のすべてが「高度な作品」と化した坂本冬美の凄み。

末尾ルコ「音楽の話題で知性と感性を鍛えるレッスン」

坂本冬美の人生に「様々な出来事」があったことはそのプロフィールを読むよりも、その歌う姿を観れば手に取るように分かる。
爪先から頭まで貫き漂うその雰囲気、そして何よりも表情。
心の芯から表情の毛細血管の端々にまで伝わってくる坂本冬美の「人生」そのものがわたしたちに訴えかけてくる。
坂本冬美も50歳を超えたが、現在のどんな年代のどの歌手を見ても、坂本冬美ほど「伝わる」表情や雰囲気の歌い手は見当たらない。
また、目を瞠るのが、和服姿の坂本冬美の完璧なまでに洗練された身のこなしだ。
坂本冬美のポージング、ステージングは、これまた現在の歌手たちの中に伍する人はいないように思われる。
あるいは日本歌謡史上最高峰かもしれない。
イントロが流れ始める前から、歌と演奏が終わり、観客に礼をするまでの時間、流れるように、一分の隙もない動きが優雅に展開する。
ほとんどのポーズがあたかも一枚の浮世絵であるかのようなクオリティなのだ。
その指先まで、その踵まで、計算され尽くし、しかも自然に、優雅な動きが連続する。
もちろん歌唱は、年々成熟の度合いと情熱を深め、デビュー曲である『あばれ太鼓』も、デビュー当時の歌とはまったく異なるレベルへと持ち上げている。

思えばずっと演歌を忌避していたわたしも、早い段階で忌野清志郎や細野晴臣とコラボしていた坂本冬美は「別格」だと注目し続けていた。
正に現在、「日本人が誇るべき歌手、表現者」の一人である。