●女子体操金メダル 村上茉愛の話題から、かつて盛り上がったソ連、ルーマニア女子体操、エカテリーナ・サボーやダニエラ・シリバシュについて。

末尾ルコ「女子体操の話題で、知性と感性を鍛えるレッスン」

村上茉愛という女子体操選手は、1996年8月5日生まれの21歳で、身長が148 cmと、やはり小さいことは小さいですな。

村上茉愛はカナダ・モントリオールの体操世界選手権種目別女子床運動で日本勢初の金メダルを獲得したことでかなり注目を浴びつつあるアスリートだ。

わたしはかつて、ソウル五輪くらいまでは体操競技を熱心に観戦していた。
その頃はソ連体操の力が圧倒的だったが、ロス五輪は国際情勢の緊迫化によりソ連を含めほとんどの東欧共産圏がボイコット。
そんな中、「独自路線」で出場したルーマニア選手団が開会式に登場した時のスタジアムの大歓声はいまだ耳に残っている。
ロス五輪の女子体操はルーマニアのエース エカテリーナ・サボーと米国で一気にスターとなったメアリー・ルー・レットンの一騎打ちとなり、米国観衆の愛国的大歓声に後押しされたレットンに僅差でサボーが涙を呑んだ形となった。
実にドラマティックな展開だった。

ソウル五輪の時には世界選手権優勝の肩書を引っ提げ、容姿的にも「コマネチ2世」と評されたルーマニアのオーレリア・ドブレに期待が集まったが、故障の影響でパッとせず、同じくルーマニアでドブレと同等以上の力を持っていたダニエラ・シリバシュとソ連のエース シュシュノワの一騎打ちとなり、これがまた非常にドラマティックな展開で、わたしは書きながら思い出し、目頭が熱くなるのである。

あたかも「ソ連の女政治家」風の堅苦しい容姿で着実に技を決めていくシュシュノワに対し、人懐っこくアイらしい笑顔と演技で観客を魅了するシリバシュ。
勝負はシュシュノワの最終種目である跳馬の結果を待つことになったが、微動だにしない着地を決め、金メダルを獲得。
その時カメラはシリバシュの顔をアップで捉えたのだが、見る見るうちにその大きな目から涙が零れ始める。

まるで名作映画のワンシーンのように、その表情はわたしの心から消えることがない。

その後ソ連は崩壊、ルーマニアは非道なチャウシェスク政権が革命によって倒され、その時には射殺されたチャウシェスクの顔が世界のテレビに映し出された。

共産圏時代に間違いなく国策として強化されていたはずのルーマニア体操は現在見る影もなく、ソ連体操もパッとしないし、もちろんかつてのソ連やルーマニア体操界が「怪しげな薬物」を使っていたであろうことは間違いないだろうけれど、そのようなことを含めても、「ソ連、ルーマニアが強かった体操はおもしろかった」というのが、わたしの個人的感想である。

そして、村上茉愛、頑張れ!