●室生犀星の代表作の暗唱をお薦めしつつ、大泉洋・宮崎あおい「あにいもうと」の石井ふく子プロデューサーはもう91歳で大尊敬。

末尾ルコ「「映画と文学の話題で、知性と感性を鍛えるレッスン」

室生犀星はまず詩人としてのイメージが強いく、最も人口に膾炙している詩は次の作品だろう。
・・・
ふるさとは遠きにありて思ふもの
そして悲しくうたふもの
よしや
うらぶれて異土の乞食かたゐとなるとても
帰るところにあるまじや
ひとり都のゆふぐれに
ふるさとおもひ涙ぐむ
そのこころもて
遠きみやこにかへらばや
遠きみやこにかへらばや
・・・

とは言え、本当に人口に膾炙しているのは、

「ふるさとは遠きにありて思ふもの」の部分であり、それより後を諳んじている日本人は多くないはずだ。
わたしは常に「詩集」を手元に置いておくこと、つまり「座右の詩集」を持つことを推奨しているが、このような詩は短く、理解しやすく、しかも美しい。
ぜひご家族で、友達同士で、あるいは恋人とともに、諳んじてみましょう。

とは言えわたしは特に室生犀星について詳しいわけではなく、繰り返し映画化・テレビドラマ化されている「あにいもうと」も未読であることを少々恥じたい気分である。
しかし世界には無数におもしろい本があり、それに対して人生はあまりに短い。
どれだけ素晴らしい本を人生の中で読むことができるか・・・これも大きな挑戦である。
さらに言えば、「本」だけに時間を使えるわけでもなく、映画も音楽も、バレエもテニスもプロレスも格闘技もあれば、私生活で愛を謳う時間も必要であり、本当は3万年くらい時間が必要なのだけれど、そんなに長生きした人類は今のところ皆無である。

室生犀星の「あにいもうと」がまたしてもドラマ化されるそうだ。
脚本は山田洋次。
もうとうに日本映画界では「神」のような存在になっている山田洋次であれば、監督しなくても脚本だけでも出演者たちは宝石の山を与えられる気分になるようだ。
プロデューサーの石井ふく子は91歳。
わたしはもう、こうしたご年齢で頑張ってらっしゃる方を見るだけで、深く敬意の念を持ってしまう。
それはもちろん石井氏のような有名プロデュ―サーだからとかではなしに、

「生きて、笑顔を浮かべてくださるだけ」で

(素晴らしい!)と感激してしまうのだ。

今年6月25日に放送される「あいにもうと」の主演は大泉洋と宮崎あおいだという。
ちゃんとしたキャスティングだとは思うけれど、心はワクワクしない。

やはり映像化された「あにいもうと」の頂点は、成瀬巳喜男監督作か。
主演は森雅之と京マチ子。
これはワクワクが止まらない。