●坂本冬美の「オリビアを聴きながら」が心に沁みた梅雨と夏の間。

末尾ルコ「音楽の話題で、知性と感性を鍛えるレッスン」

「オリビアを聴きながら」という曲は尾崎亜美の作詞・作曲で、杏里によって歌われたのがオリジナルなのだけれど、わたしは(いい曲だな)と感じたことがなかった。
「オリビアを聴きながら」の「オリビア」とは「オリビア・ニュートン・ジョン」のことで、70年代後半には外国人歌手としては日本で突出した人気があった。
わたしも『そよ風の誘惑』や『水の中の妖精』など複数のアルバムを購入したが、いつの間にか飽きてしまっていた。
ジョン・トラボルタと共演した『グリース』などの頃は、どちらかと言えば、「嫌な女性歌手」の範疇に入っていた。
「フィジカル」などの曲がいかにも大味で、まったく興味に対象にはならなかった。
「オリビアを聴きながら」は、オリビア・ニュートン・ジョンの『きらめく光のように』の中の曲をモチーフにしていて、歌詞の中でアルバム現代でもある「MAKING A GOOD THING BETTER」というフレーズが使われている。
この曲がヒットしていた頃、よく頭をよぎっていたのが、(オリビア・ニュートン・ジョンをこんな聴き方する女性がいるのかな・・・)という疑問であって、まあ同曲のリリースは1978年なのだけれど、この時点で日本の女性にオリビア・ニュートン・ジョンをしみじみと聴く人がそんなにいたのかなという疑問である。

それはさて置き、ずっとわたしの琴線に触れたことがなかった「オリビアを聴きながら」が最近触れた意外性の下に、この文章を書いているのだけれど、それはやはり杏里の歌唱ではなかった。
では誰が歌ったものか?
坂本冬美である。

「オリビアを聴きながら 坂本冬美 Fuyumi Sakamoto」(https://www.youtube.com/watch?v=9HmnLBjS210

坂本冬美はポップスを含めて多くの「昭和の名曲」にトライする重要な活動をしているが、もちろん歌って合う曲、合わない曲がある。
そして常に思うところなのだけれど、

「名曲って何なのだ?」

というヤツですね。
あるいは、

「何が名曲なのか?」

と言い替えてもいいが、日本の場合、「ヒットした曲=名曲」と、実にビジネス優先で捉えられているところがあり、もちろんわたしは)それは違う)と思っているが、この感覚は容易には改まらない。
映画であれば日本にも複数の映画賞があり、たとえヒットしなかった作品でも賞を与えられたり、大ヒットした作品でも、賞にもランキングにもかすりもしない作品もある。
歌の場合合なかなかそういうのないんですね。
『ミュージック・マガジン』とか、音楽誌で「今年のベストアルバム」的な企画をやったりするけれど、「読者」しか読まない。
日本における映画報道に対しては大きな不満があるけれど、それでも各賞についてある程度は報道されている分まだましかと言うところだ。

それにしても円熟の境地に留まらず進化を続ける坂本冬美の、「敢えて力を抜いた歌唱」はしばしば心の芯まで届いてくるのである。