●雪原!ポップな高倉健!ショートカットの大原麗子!『網走番外地 北海篇』、あるいは『恐怖の報酬』&『長州力 最後の告白』のどこに衝撃を受けたか?

末尾ルコ「映画とプロレスの話題で、知性と感性を鍛えるレッスン」

ああ、健さんカッコいいなあ!
もちろん千葉県知事のことではない。
高倉の健さんのことだ。
わたしが子どもの頃、既に伝説的映画スターであって、しかし名前は知っていてもまだ作品は一本も観ていなかった。
どういう好みの違いだったかはよく分からないが亡父の好んでいた俳優は、三船敏郎、市川雷蔵、長谷川一夫、勝新太郎らで、高倉健は入ってなかった。
まあこうして眺めてみると、時代劇映画が好きだったという傾向は見られるが。
だからわたしが高倉健の、特にヤクザ映画を観始めたのは大人になってからである。

ずっと前から「寡黙で一徹な高倉健」というイメージは定着していて、『幸せの黄色いハンカチ』以前のヤクザ映画でも、「唐獅子牡丹」ものなどはそのイメージのキャラクターを演じていたし、もちろんカッコよかった。
ヤクザ映画で高倉健が真剣を持つ時の殺気と凄まじく画になり他の俳優たちと同じ場所におりながら一人だけ浮き上がって見える尋常でない雰囲気はまさに唯一無二のものである。

しかし「饒舌でポップな高倉健」の存在も忘れてはならない。
寡黙でもなく、一徹ではあるけれど、その一徹さの発揮の中におふざけもしっかり交えてしまう。
『網走番外地』シリーズはそんなポップな高倉健を見せてくれる愉しくも痛快な映画群だ。

『網走番外地 北海篇』の高倉健は、とにかくトラックを走らせる。
しかも雪原の中をだ。
時にそれはブリューゲルの絵画を彷彿させてくれる。
『網走番外地』はもちろんプログラムピクチャーシリーズなのだけれど、邦画が元気なころのプログラムピクチャーのレベルの高さときたらない。
エンターテインメントとして掛け値なしにおもしろく、しかも一本の中に様々な愉しみが用意されており、短い撮影期間でありながら、高い芸術性を帯びることもある。

『網走番外地 北海篇』は突っ走るトラックを中心に様々な困難を突破していくストーリーで、ジョン・フォードの『駅馬車』を下敷きにしているという。
わたしは鑑賞しながら、「トラック」ということあり、アンリ・ジョルジュ・クルーゾーの『恐怖の報酬』を想起した。
イヴ・モンタン主演。
トラックでニトログリセリンを運ぶ仕事を請け負った男たち。
強烈なモノクロ映像により、時間を追うごとに異様な緊張感が高まり続ける。

『網走番外地 北海篇』には終盤ヘリコプターによるアクションも用意されている。

嵐寛寿郎がカッコよく、ショートカットの大原麗子はやや蓮っ葉な役どころだが、しかし既に何がしかの気品を感じさせてくれる。

・・・

TSUTAYAで『長州力 最後の告白』という本を見かけたので手に取ってみたが、驚いた。
何に?
その字の大きさに。
こりゃあ、子ども向けの絵本よりも字が大きいのではないか・・・と感じるような活字サイズなのである。
昭和プロレスを扱った本はよく出版されているが、こんな適当な作り方はいけませんや。