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●山田洋次『故郷』における見事な「アップに耐える顔」たち~菅田将暉『男子高校生の日常』と『明烏 あけがらす』はダメです。 [「言葉」による革命]

●山田洋次『故郷』における見事な「アップに耐える顔」たち~菅田将暉『男子高校生の日常』と『明烏 あけがらす』はダメです。

末尾ルコ「映画の話題で、知性と感性を磨くレッスン」


山田洋次監督『故郷』を観て、これは「民子3部作」の2本目だけれど、1本目の『家族』に続くストーリーではないのですね、そしてやっぱり実に充実した鑑賞タイムを過ごせた。

ついでというわけではないが、この頃の映画についても言及しておくけれど、そして菅田将暉が既に多くの見事な作品の中で見事な役を演じていることもこれまでに何度も書いていて、わたしは「菅田将暉のファン」と、それは「熱烈な」という言葉はつかないけれど、ファンである間違いなく、『あゝ、荒野』を含め、繰り返すけれど、見事な作品の中で見事な役を演じていることは重々分かっている。
が、それにしても『男子高校生の日常』と『明烏 あけがらす』は酷かった。
こういうの、映画にしなくていいよ・・・というお話はまた別の機会にするとして、今回は『故郷』であるが、「これぞ映画」である。
ロケ地である瀬戸内海の風景が美しく、呉のやや埃っぽい町の様子、工業地域の理不尽なまでの存在感も的確に捉えられている。
主役の民子はもちろん倍賞千恵子、夫は井川比佐志、その父が笠智衆という3人の構成が前作『家族』と同じなのがおもしろいが、『家族』より渥美清の出番は多い。

井川比佐志と倍賞千恵子が夫婦で砂利運搬船を営んでいるが、老朽化した船の故障を直す費用もなく、工場で働かざるを得なくなる過程を描いている。
なにせ砂利運搬船の描写がスペクタクルで、そもそもこの映画がなければわたしなど生涯こうした仕事がある事実を知らなかったかもしれない。
事務系の仕事は少し違うが、実は「仕事」というものの多くはスペクタクルな要素を内包しており、山田洋次はもちろんそうしたことをお見通しで題材としているのだろう。
思えば昨今の日本映画は、「仕事」の要素も実に希薄である。

『故郷』を観ながらまたあらためて感じたのが、映画における、

「アップに耐える顔」というテーマだ。

「アップに耐える顔」こそ主演級の映画俳優にとって、「最も重要なクオリティ」と言ってもよいが、これはもちろん一般的に語られる「美人、美男」のことではないし、まして「イケメン」の話でもない。
要するに、巨大なスクリーンの中でアップになって、

「ビシッと決まる」のが、

「アップに耐える顔」である。
その辺のモデルや「ミス~」を出したところで、到底「アップに耐える顔」とはならないのである、普通は。
『家族』の場合、倍賞千恵子はもちろん、笠智衆、井川比佐志、そしてもちろん渥美清も、見事なまでに「アップに耐える顔」だ、素晴らしい!

作品終盤、井川比佐志は「俺たちは置きなものに負けてしまうんじゃのう」と唸るように語る。
そしてわたしは思うのだ、

いつまでも大きなものに負け続けていてはならない、と。

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いっぷく

>思えば昨今の日本映画は、「仕事」の要素も実に希薄である。

映画ではないのですが、1980年代のドラマあたりからそれは言われ始めましたね。当時読んだ批評では、社長シリーズと比較して、社長シリーズは喜劇だったが、仕事の成約に向けてストーリーが展開していた。それに比べて昨今のトレンディドラマは、オフィスドラマなのに仕事が見えてこないというような内容のものが印象に残っています。まあトレンディドラマというと、何を食べたか、どんな服を着たかという話が多く、就業中も格好いいシーンしか出てこないので、うわべでその職業に憧れる考えの浅い人が出ましたね。
『男たちによろしく』で、田村正和がレーザーディスクの編集者を演じていたのですが、たくさんのモニター見ながらスイッチをカチカチやって、夜は上品な店で女の人と遊んでいるところが格好良く見えました。
でも実際には、そういう仕事は徹夜が当たり前ですし、賃金は安いですし、私がすぐに辞めてしまった電通の子会社でもCMライブラリーというのを当時はビデオですが作っていたのですが、編集作業者は社内でもっとも階級が下で、作業は、電通興産ビルというのが銀座の新富町にあるのですが、そこの地下の駐車場に仕切りを作って、排気ガス吸いながら何日もこもってやってましたね。私はそれが嫌でやめたんですけどね。体壊しそうですし。

>『故郷』

高度経済成長から置き去りにされた人たちを描く、というモチーフでしたね。
倍賞千恵子には、生活につかれた、でも暗くしょぼくれているわけではない、庶民の鑑のようなたたずまいに色気を感じました。
親孝行で、家と家業を守って愚直に働いたって、結局食い詰めてしまう。井川比佐志が「何が悪いんかのぅ」と倍賞千恵子に問いかけるわけですが、そもそも日給1200円の日雇い以下の収入しかない砂利船の船長なんて、かりに船が壊れなくても、もう職業として厳しくなっていたわけです。
砂利船でなくても、たとえば小売店の店主だって、スーパーに飲み込まれていくわけで、ベンチャーを起業して成功するような人でなければ、よらば大樹の会社員としてつとめるのが経済的には一番の得策だったんだなあと、自分の人生を振り返ってちょっと考えさせられました。まあ会社員でも倒産やリストラがありますから、絶対ではないですけどね。
by いっぷく (2019-02-06 05:52) 

hana2019

菅田将暉の映画「あゝ、荒野」は先に観たばかりながら、彼の熱演は認めるものの・・・冗長な展開に退屈してしまい、これといった感想はありませんでした。
ボクシングをテーマにしているから苦手という訳ではなく、沢木耕太郎作の難問を抱えつつも一瞬にかけるボクサーの物語「一瞬の夏」などは面白く読みました。
映画「故郷」は観ていないものと思います。
アップに耐える顔…と言う事から思い出したエピソードのひとつ。
フランスの大女優カトリーヌ・ドヌーブ、一時期日本のウィッグのCMに出演、その撮影の最中。
カメラを通してみた彼女の顔が、実際は予想を超えて意外と大きかった。欧米系の人々の体型としては、顔が小さいのが一般的。
しかし彼女は動じず、「私の顔はスクリーンを通してみるとちょうど良いの。綺麗に見えるのよ」と。大女優ならではの風格で答えたと言う。勿論、スクリーン上でのドヌーブしか知らない私でも、納得のゆく応えであったよう思えました。
by hana2019 (2019-02-06 17:51) 

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