SSブログ

●「狂気のレッスン」~1980年、デ・ニーロ、『地獄の黙示録』、そして『影武者』、『ツィゴイネルワイゼン』~日本人も「狂気」を理解していた? [「言葉」による革命]

●「狂気のレッスン」~1980年、デ・ニーロ、『地獄の黙示録』、そして『影武者』、『ツィゴイネルワイゼン』~日本人も「狂気」を理解していた?

末尾ルコ「映画と狂気の話題で、知性と感性を鍛えるレッスン」

1980年に倍賞千恵子は日本アカデミー賞最優秀主演女優賞を獲得している。
対象作品は、『遥かなる山の呼び声』と『男はつらいよ 寅次郎ハイビスカスの花』である。
同じく『遥かなる山の呼び声』、そして『動乱』への出演により、高倉健も同賞最優秀主演男優賞を受賞している。
高倉健と倍賞千恵子が最優秀主演男優賞で並び立つ。
まさしく「日本映画がここにあり!」の時代の名残がまだ継続していた感がある。

何せこの年、各映画賞の作品賞は、『影武者』(黒澤明監督)と『ツィゴイネルワイゼン』(鈴木清順監督)が分け合っている。

『影武者』と『ツィゴイネルワイゼン』である。
この凄まじいスケール感はどうだ。
世界中どこへ出しても超絶スケールの映画として観客を圧倒するこの2本、もちろん『ツィゴイネルワイゼン』のスケールとは制作費の問題ではないけれど、わたしはどちらの作品も愛している。

『影武者』はカンヌ国際映画祭でパルムドール(最高賞)を授賞している。
日本の一部批評家筋には「様式美に過ぎる」などと批判されていた同作だけれど、それはいささか視野の狭い批評的文脈ではないかと、わたしは今でも思っている。
もちろん『影武者』、日本で批判も少なくなかった割りには、ブルーリボン賞、毎日映画コンクールで作品賞・大賞を受賞している。
日本アカデミー賞は、黒澤明はもとより「辞退」であり、言うまでもなくジャニーズ連中の「辞退」とはまったく異なる次元の話で、これはこれでわたしはよかったと思っている。
ちなみに1980年の日本映画配収ランキングを見てみると、

1『スター・ウォーズ 帝国の逆襲』
2『影武者』
3『復活の日』
4『007 ムーンレイカー』
5『地獄の黙示録』

がトップ5を成している。
『影武者』、堂々の2位もさることながら、『地獄の黙示録』のごとき、まさしく「狂気の産物」としか言いようのない異常映画が興行的にも大成功を収めていたのである、まだ1980年の日本は。

『地獄の黙示録』については、いまだその「狂気と圧倒的スペクタクルの混合」という意味でこれ以上の作品は見当たらないが、1980年は世界映画史において重大な事件があった。

ロバート・デ・ニーロが『レイジング・ブル』でアカデミー賞主演男優賞を獲得したのである。

既に「ゴッドファーザーPARTⅡ」、『タクシードライバー』、『ディア・ハンター』などで、世界映画界の「狂気のカリスマ」「狂気のスーパースター」として不動の地位に君臨していたデ・ニーロだが、『レイジング・ブル』による肉体改造によって「映画史の流れを完全に変えた」のである。

さて、2018年日本。
「狂気」はどこにあるだろうか?

nice!(24)  コメント(2) 
共通テーマ:アート

nice! 24

コメント 2

いっぷく

『影武者』の年でしたか。勝新太郎が喧嘩して降板した作品ですよね。あの年はテレビの警視-Kも振るわなかったので、勝新太郎の「終わりの始まり」だったように思います。
『男はつらいよ 寅次郎ハイビスカスの花』は、マドンナが浅丘ルリ子で、船越英二と3人で旅をして、万年筆の泣き売をしたり、船越が駅のベンチで寝るのにパジャマに着替えたりする話でしたね。あれがさくらが受賞の対象になるのですか。
東京に帰ってきて、寅次郎とリリーはとらやで仲良くやっていて、これはいいカップルだと思ったさくらが、寅次郎とリリーが結婚したらどうか、と2人の前で善意で提案したら、寅次郎はそれを否定して、その後居づらくなって旅に出てしまった。八千草薫や池内淳子のときは、本人が寅次郎に告白したらだめになりましたが、さくらが壊したのは『ハイビスカスの花』の時が初めてでした。そういう意味では、倍賞千恵子の役どころは重要でしたけどね。
寅次郎は、みそめた人に対しては脇目も振らず夢中になるくせに、現実に次の段階に進めそうになると自分から降りちゃう人です。では、どうしてすぐ人を好きになるかと言うと、自分は妾腹の子で、母親(ミヤコ蝶々)が寂しい思いをしたので、自分は女の人をきちんと好きになりたいという思いがきっとあるのです。その一方で、フられてばかりなので、女の人を信用できない気持ちもあるのだと思います。女に翻弄され傷つけられるキャラクターは、山田洋次監督の「毒」が出てますね。さくらもこの回は悪役になってしまいました。
リアルの倍賞千恵子は、早川保との同棲を解消して、「幸福の黄色いハンカチ」をきっかけに高倉健に傾倒していった頃ですね。ということは、リアルで人を好きになることが、女優としてのステップアップにつながるのかもしれません。
新日本プロレスができたころ、倍賞姉妹で見に来ていて、豊登が現役復帰を決意するシーンで、倍賞美津子は空気を読んで涙を流していましたが、倍賞千恵子はケラケラ笑っていたので、なんだかなあと思いましたが、そこから役者としても成長したのかもしれませんね。
高倉健は、東映をやめた後、「君よ憤怒の河を渉れ」に出ましたが、正直つまらない映画でした。中野良子が70年代前半にくらべてちょっと落ち始めた頃で、そういう意味では見どころがなかったですね。「あにき」という倉本聰のドラマも振るわず、「八甲田山」はもう最初から金をかけた大作で豪華メンバーですから、高倉健が脱東映で一本立ちできたのは「幸福の黄色いハンカチ」であり、山田洋次監督との出会いがなかったら、高倉健のその後はなかったかもしれません。
by いっぷく (2018-04-28 05:04) 

hana2018

「影武者」「復活の日」「007シリーズ」も「 ムーンレイカー」は定かでないものの劇場で観ておりました。
「007」「スター・ウォーズ」と シリーズものには同じ時代を生きてきたはずなのに、全く思い入れがないのです。
あの頃の日本映画のもつ贅を尽くした映画「影武者」ながら、内容的には万人受けするものではないのでは?といった感想をもった覚えが。
その点「八甲田山」「幸福の黄色いハンカチ」はストーリーも明確で、わかっているけどまた観てしまう・・・映画の中に入ってしまう。そこに高倉健の魅力が絡んでいるのも事実に思います。
デ・ニーロの出演作品はほぼ観ていたものの、アカデミー賞主演男優賞を獲得した「レイジング・ブル」のみまだでした。
ボクシングものは積極的に観たいとは思えないのが理由のひとつであります。
by hana2018 (2018-04-28 14:28) 

コメントを書く

お名前:
URL:
コメント:
画像認証:
下の画像に表示されている文字を入力してください。