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●『男はつらいよ』の「おいちゃん」は、やはり森川信がピッタリの手袋~「抗NMDA受容体脳炎」の女性を描いた『8年越しの花嫁』が成功している理由とは? [「言葉」による革命]

●『男はつらいよ』の「おいちゃん」は、やはり森川信がピッタリの手袋~「抗NMDA受容体脳炎」の女性を描いた『8年越しの花嫁』が成功している理由とは?

末尾ルコ「映画の話題で、知性と感性を鍛えるレッスン」

『男はつらいよ 柴又慕情』では既に「おいちゃん」は松村達雄になっていて、以前のように断片的な鑑賞ではなく、基本的に生昨年度順に鑑賞していると、確かに「おいちゃん」は森川信がよかったなと深く感じてしまう。
それはもちろん、「初代」であることのアドバンテージはあるけれど、それにしても森川信は「おいちゃん」として比類のない味がある。
森川信の「おいちゃん」は、「おいちゃん」という人間そのものがその場に存在し、そこから彼の人生が哀愁や可笑しみとともに強く立ち昇ってくる。
『新 男はつらいよ』の「ハワイ旅行へ行ったことにする」見事なナンセンススラップスティックシーンは、そんな森川信の存在感なしでは考えられない。
友人のフランス人フェノン(仮名)がよく使う例えだが、要するに、「完璧なはまり役」のことを、「ぴったりの手袋に手を入れるよう」と。
「おいちゃん」の森川信はまさにそれに当たる貴重な例の一つではないか。

ところで意外とよかったのが、『8年越しの花嫁 奇跡の実話』であって、普通ならタイトルを見ただけで(ご勘弁~~)となるところだが、監督が実績のある瀬々敬久だったので(そうそう馬鹿な内容ではなかろう)と判断し、観たら十分満足できる内容だった。

ストーリーは映画タイトル通りであるが、ある若い婚約したカップルの女性の方が結婚式直前に倒れて昏睡状態に陥り、2年後に意識は戻ったけれど、婚約者についてはまったく記憶がなかった、その後男性は献身的に女性を支えようとしながらも、途中(諦めるしかない)と決心するシチュエーションも訪れる、しかし苦難の末二人は8年越しで結ばれる・・・というもの。
タイトル通り実話だという。

この女性が罹患した病気は「抗NMDA受容体脳炎」というもので、20歳前後からなるでく健康・医療情報を摂取してきたわたしだけれど、この病名はまったく初耳だった。
罹患する確率は数百万人に一人だとも言われている。
映画『エクソシスト』のレーガン(リーガン)のモデルとなった少女は実はこの病に罹っていたのではという説もあるようだけれど、それはまあ後からの憶測に過ぎないので、断定してはいけません。
確かに『8年越しの花嫁 奇跡の実話』で主人公の女性が「抗NMDA受容体脳炎」を発病する時に激しい痙攣などは『エクソシスト』を彷彿させるものはあるのだけれど。

『8年越しの花嫁 奇跡の実話』の秀逸さは野外ロケのショットにもあて、この作品のモデルとなったカップルは岡山県在住だが、街の撮り方もいいし、特に瀬戸内海の海面を水平に捉えたショットは素晴らしい。

邦画で大病を患った主人公を中心とした実話物としてすぐに挙がるのが、吉永小百合主演の『愛と死をみつめて』だけれど、今キャストを見返すと、「患者」として北林谷栄、笠置シヅ子、ミヤコ蝶々と、豪華なメンバーが並んでいるのに驚かされる。
でも若き日の吉永小百合と多くの作品で組んでいた浜田光夫が、わたしはどうも苦手なのである。

『8年越しの花嫁 奇跡の実話』の主役は、土屋太鳳と佐藤健だ。

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いっぷく

そうですね、森川信がいちばん合ってました。松村達雄は、『どですかでん』で屁理屈ばかり言いながら自分は何もせず、引き取った姪を働かせ食わせてもらい、挙句の果てにお腹を大きくしてしまう、あのロクでなしは「完璧なはまり役」だったと思うんですけどね。下條正巳もどちらかというと打算で動くインテリ役が多かったように思います。
松村達雄が降りたときは、「歯の治療中で迷惑をかけるから」というようなことでしたので、そのぐらいで降りるのか不可解な言い訳で、その後もときどき『男はつらいよ』には出ていましたから、要するにおいちゃん役をやりたくなかっただけかなと思いました。渥美清との共演は3人の中でいちばん多いので、慣れていると思うのですが。
下條正巳も三崎千恵子も、劇団民藝脱退組なんです。ですから、大大幹部の宇野重吉が出たときは、いったい撮影所の雰囲気はどうだったのかなと興味がありました。まあ新劇の離合集散はたくさん行われているので、いちいちしこりを残していたら仕事はできないと思いますが。
余談ですが、中村梅之助と河原崎長一郎が共演したときは、ちょっと話題になりましたね。前進座で、長一郎の父親の長十郎は毛沢東の文化大革命を支持して、梅之助の父親は日本共産党、つまり反中国の側について、権力抗争があり、それに敗れた長十郎派は前進座を除名されたのです。
文学座では、北村和夫が、三島由紀夫の話は右翼的で演じられないといって、たしかこのときは、名古屋章とか樹木希林が文学座を脱退しているんですよね。
今はわかりませんが、当時は芝居の世界は政治思想と結びついて、かなりデリケートな問題でした。

>抗NMDA受容体脳炎

私も初めて知りました。
「知能は2歳児ぐらい」だったのがもとに戻れるというのは、たぶん低酸素脳症のように脳神経が広範に損傷するのではなく、あくまでも炎症、つまり鍛え直せばまた使えるようになるということなんでしょうね。
「難病」であって「障碍」でははなく、「病気」である以上回復する可能性はあるということですね。
といっても、8年辛抱したのは大変でしたね。まあ当事者からすると、成り行きという面もあったと思うのですが。何年か辛抱したら、途中で辞めるわけにもいかないですしね。
これでハフポストがコーフンして、契約結婚とか、おかしなことを言う人達を「新しい家族の形」と持ち上げる記事を書き始めたんですね。当事者にとって必死の実話を悪用している感じですね。ハフポスト。
by いっぷく (2018-12-24 05:51) 

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