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●やはり、凄い!『男はつらいよ 寅次郎頑張れ!』の、残酷で美しいクライマックス、そして歌われる「菩提樹」の意味。 [「言葉」による革命]

●やはり、凄い!『男はつらいよ 寅次郎頑張れ!』の、残酷で美しいクライマックス、そして歌われる「菩提樹」の意味。

末尾ルコ「映画の話題で、知性と感性を磨くレッスン」


『男はつらいよ 寅次郎頑張れ!」は1977年に公開されている。
マドンナが藤村志保で、中村雅俊と大竹しのぶも出演している。
1977年と言えば、アリVS猪木の翌年である。
テレビドラマで大人気だった中村雅俊は既に『俺たちの勲章』、『俺たちの旅』らが放送されている。
大竹しのぶは・・・『男はつらいよ 寅次郎頑張れ!』よりも後に、『事件』(1978年) 、『鬼畜』、『あゝ野麦峠』など初期の代表作が公開されている。
最近はあまり取り沙汰されないが、当時『あゝ野麦峠』はメディアにもよく取り上げられていたし、テレビでも放送された。
なにかこう、「必見」というイメージのある映画だった。
それにしても、『男はつらいよ 寅次郎頑張れ!』の、藤村志保、中村雅俊、大竹しのぶの3人は、いずれもメジャーでバリュー十分の俳優たちながら、接点がイメージできない組み合わせでもある。
だからこの3人の共演というだけでも、『寅次郎頑張れ!』は観どころたっぷりである。
それにしてもこの可愛らしい大竹しのぶが、現在は図々しくも、「エディット・ピアフを歌う第一人者」のように振る舞っているのはいただけなさ過ぎる。
世界の歴史上でも屈指の大歌手です、エディット・ピアフは。
大竹しのぶさん、あなた歌手じゃないでしょう!

『男はつらいよ 寅次郎頑張れ!』は、寅次郎が中村雅俊と大竹しのぶの仲を取り持とうとする。
そして中村雅俊の姉役の藤村志保と出会い、恋に落ちる。
長崎は平戸にある藤村志保の店を手伝い始める寅次郎。
藤村志保と二人きりの夜になりそうな展開の中、空想の中の「ふたりの時間」を一人語りするシーンが有名だそうだが、確かに観応えたっぷりだ。

そして、やはり凄いのがクライマックス。
東京へ出てきた藤村志保を寅次郎が平戸まで送るという話になる。
しかし中村雅俊が藤村志保を呼び、倍賞千恵子も同席する前で、「寅さんと結婚するつもりがないのなら、送ってもらってはいけない。寅さんは姉さんに惚れているんだから」と咎める。
まったく意外そうな表情をする藤村志保。
残酷なシーンである。
藤村志保の背後の倍賞千恵子の重く疲れた表情がまた凄い。
しかも宴席で酔いつぶれていた寅次郎がたまたま目を覚まし、3人の会話を耳にしてしまう。
しかし、「耳にする寅次郎の表情」など、山田洋次は捉えはしない。
ただ、「聞いてしまった」後、寅次郎が階段を降りる姿をカメラは上から捉える。
そのカメラはさくらの視線なのであり、つまり寅次郎が「聞いてまったこと」を、さくらだけが知るのである。
宴席を戻った時の寅次郎の虚しさに満ちた表情。
宴席ではシューベルトの「菩提樹」が歌われている。
その歌詞には、「菩提樹の木陰で甘い夢を見た」という意味が含まれている。

翌朝、寅次郎は旅に出る。
見送るさくら。
「(藤村志保に)何て言えばいいの?」と尋ねる。
寅次郎は一瞬躊躇し、言う。

「まあ、何か適当に言っといてくれよ」

凄い台詞だ。

そして寅次郎は画面の向こう側へと歩き始め、電車も同じ方向へと走り、その後画面の外から自転車が現れ、寅次郎を追い抜いていく。

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(。・_・。)2k

20作目は  まあ、何か適当に言っといてくれよ
これが全てですね
寅さんの真面目さというか 誠実さというか
幾度となく繰り返される 恋 ですが
誠実さ故に辿り着かない幸せ
上手く 自分で伝えられないんでしょうねぇ

by (。・_・。)2k (2019-03-08 03:52) 

いっぷく

>「(藤村志保に)何て言えばいいの?」と尋ねる。
>寅次郎は一瞬躊躇し、言う。
>「まあ、何か適当に言っといてくれよ」

どれと具体的にはいえませんが、『男はつらいよ』48作の中盤はこのパターンがいくつもあったように思います。
山田洋次監督の「毒」です。山田洋次監督が『男はつらいよ』を通して表現したいのは実は「毒」ではないのか、と思ってしまいます。
思い起こすとむしろ婉曲にでもダメ出ししたのは若尾文子ぐらいじゃないかとおもいます。みんな寅さんの気持ちにつけこんで利用していくマドンナばかり。
寅さんが恋のキューピットをするようになったのはこの作品からですね。
沢田研二と田中裕子とか、長渕剛と志穂美悦子とか、実生活まで一緒になったカップルもいるし。

中村雅俊は『俺たちの祭』を撮ってるときですから、まだキャラクターを作っているときですね。
『俺たちの祭』は正直ウケなかったので(鎌田敏夫はときどき空振りがあります)宮内淳だったらそこで消えてしまうのですが、中村雅俊は逆に別の作品でチャンスをまたもらって、また原点の学園モノ(青春ド真ん中)に戻って、そして引き続き出演した『ゆうひが丘の総理大臣』であのキャラクターが完成しました。

大竹しのぶは『水色の時』と『青春の門』で抜擢されて出てきましたが、どちらも見ましたけど、以来40年、入れ込んで見たことはないですね。専門家の彼女に対する評価はいろいろあると思うのですが、最近も30人以上寝たとかいう話をしていて、堂々と「枕」の話をするというのもどうなのかなと思いますし。そもそも30人どころではないと思いますし……
ある管楽器の大御所の某さんがそういう人で(笑)20代の頃、あちらから声をかけていただき少しお付き合いしましたが、そちらの方面があけっぴろげで、少しお盛ん過ぎないのかと意見したところ、寝る数が増えることで芸術家として深みをますのではないのか、というようなことをいわれて、付き合う相手としてはちょっと厳しいなと思いお別れしたのですが、すぐに別の男性と同棲したようです(笑)
大竹しのぶが、中村晃子の彼氏と略奪婚して、亡くなると今度はさんま、すぐに野田秀樹と、絶え間のない「活躍」は、どうもその人とダブって見えてしまいます。
by いっぷく (2019-03-08 04:16) 

hana2019

寅さんのマドンナ役が藤村志保とは、意外と言いましょうか。寅さんが勝手に惚れるのは構いませんけど、二人のもつムードが違いすぎる気がしてなりません。
中村雅俊と大竹しのぶの二人も、特にどうとも思いませんけれど、大竹しのぶ=エディット・ピアフは当然、いただけません。ピアフに失礼と言うものです。
山本薩夫監督作品「あゝ野麦峠」は原田美枝子、古手川祐子、北林谷栄、三國連太郎、西村晃…キャストの豪華さで。
次に三原順子を主演に撮った続編は、山本監督の遺作ともなった本作でのもう一人の主役=石田えりが、ある番組中懐かしんで語った姿が印象的でした。
一人だけ胸を出すシーンには抵抗があった事、しかし後になってみれば監督の指示に従って、自分の意志を通さなかったのは正しいものであったと。
by hana2019 (2019-03-08 13:30) 

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