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●『続 男はつらいよ』、土手のシーンの圧倒的詩情~昭和の大女優田中絹代の「大炎上」事件の時代とは。 [「言葉」による革命]

●『続 男はつらいよ』、土手のシーンの圧倒的詩情~昭和の大女優田中絹代の「大炎上」事件の時代とは。

末尾ルコ「映画の話題で、知性と感性を鍛えるレッスン」


『続 男はつらいよ』で車寅次郎越しに土手が見えるのである。
土手の上に人がいて、歩いているのである。
詩情がある。
作品中、何度となくあるこのようなシーンがいかに『男はつらいよ』を豊穣な映画としているか。
土手の上の人は複数の時もあるし、一人の時もある。
彼らの頭上には空がある。
空しかない。
人物は動いている。
画面の向かって左側に歩いて行くことが多く、つまり人物は画面の外側へ消えていく。
こんな土手のシーンに触れるだけでも、(ああ、『男はつらいよ』に出会えてよかった)と、そして(映画に出会えてよかった)と、強く感じるのである。
「動く画」、とりわけ優れた映画監督によって演出された「動く画」の快感は比類なく、「止まった画」、つまり絵画や写真とはまったく別種の快感を与えてくれる。
もちろん小説とも違う快感を。
その極致の一つが溝口健二監督の『西鶴一代女』であって、初めて同作品を観た時の、画面の隅々まで人々がうねうねと動く画には衝撃を受けた。
その姿はまるで森羅万象が互いに影響しあっているという自然の摂理さえも表現しているようだった。

『西鶴一代女』の主演は言うまでもなく田中絹代である。
よく考えたら、原節子も、小津安二郎も、そして2018年現在も94歳でご存命の京マチ子も、生涯独身なのだ。
そして田中絹代は清水宏監督と「試験結婚」したけれど、約2年で離婚。
このあたりの経緯もとても興味深いのだが、田中絹代で思い出すのは父が『愛染かつら』のテーマ曲、つまり「旅の夜風」をオルガンで弾いていたこと。
わたしはいまだ『愛染かつら』も、そして元祖アイドル映画とも呼ばれる田中絹代主演の『伊豆の踊子』もまだ観ていない。
『愛染かつら』は昭和13年~14年だからなかなかに古いけれど、父はこの映画を観ていたのだろうか。
YouTubeにはお誂えむきに、霧島昇とばいしょうちが歌っている動画があった。
「(歌詞付)霧島 昇(3)/愛染草紙2番:旅の夜風(1- 4番、フルコーラス))
https://www.youtube.com/watch?v=MT3E68Z2F5Y&list=PLQem1A1ni0eEsyTc-qytLy39pFe7QtSG3

こういう映像がいきなり観られるのはいいですな。
現代の大きな利点。
「いま」にも、いい側面、悪い側面があるのです。
霧島昇のスーツも倍賞千恵子のドレスも渋い色調だ。

田中絹代と言えば、日本芸能史の中でも数々の伝説的エピソードを持っていて、特に有名なものの一つが、1949年(昭和24年)10月に日米親善使節として渡米してハリウッド見学などをして翌年1月に帰国。
大歓迎ムードの日本人に冷水を浴びせたのが、その立ち居振る舞いであり、特にサングラス、そして「ハロー」&「投げキッス」連発に至っては日本人の敗戦&米国人コンプレックスを大いに刺激し、とてつもないバッシングを浴びたのだった。
「炎上」が何かと取り沙汰される昨今、昭和の大女優が受けた「大炎上」とその時代についてじっくり考えてみるのもいいかもしれない。

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いっぷく

土手のシーンは、普段はあまり気にしていませんでしたが、いつだったか夕やけをバックに、寅次郎とさくらが話しているシーンを見た時、山田洋次監督はきっと「土手を歩く」というのが、何かを表現しているんだろうなと思いました。
たとえば、踏切で電車が通って遮断器が上がるまで足元だけを撮るシーンをいろいろな監督が使いますが、あれは「主人公の心境の変化」のサインになってますね。伝統的な手法なんでしょうね。
ただ、それは続けざまに繰り返し複数の『男はつらいよ』を見ないとわからないですね。48作もあると、そのように読み解くテーマは数え切れないほどあります。

>愛染かつら

私は『愛染かつら』というと、新藤恵美と藤巻潤(笑)主題歌の『旅の夜風』は都はるみです。
そのときはどうということなかったのですが、先日、都はるみがマドンナの『男はつらいよ』を久々に見直したので、都はるみ版の『旅の夜風』も聴いてみたくなったのですが、ネットには試聴すらないですね。
美人とは言えないはずの都はるみが、寅次郎を信頼して抱きついたり手を握ったりするシーンが、なぜかドキドキしてしまいます。
倍賞千恵子の歌声はもう以前から素晴らしいとおもっていますが、『太陽ともぐら』というドラマの主題歌を歌っていて、このときの声量もすばらしいのですが、残念ながらこれもネットにはありません。再放送もされないのが残念ですね。
もちろん山田洋次作です。植木等も出ているので興味深かったですね。

>『男はつらいよ』

私も子供の頃は、『男はつらいよ』というとリリーさんが一番だろうとおもったものですが、今は、榊原るみもよかったし、太地喜和子も良かったし、三船敏郎が出たときも良かったし、都はるみも良かったし、趣旨は変わってしまったけど後藤久美子が出てからもいい物語だったと思うし、どれが一番かという順位をつけるのがむずかしいですね。
私の通行人人生で、『男はつらいよ』に出なかったことはまことに悔やまれます。山田洋次監督に手紙でも書いてお願いすればよかったかなと、まあ『武士の一分』での提案を笑って握りつぶされた木村拓哉のように無視されて終わりかもしれませんが。

>グループとしては寂しい状況になってきたと記憶しております。

そうですね。志村けんの突出した人気よって、それぞれのキャラクターで5人が頑張っていたグループコントの性質がかわってしまったのと、志村けんは楽器を奏でませんから、バンド・グループの看板を完全に下ろしてしまったことが残念ですね。志村けんが入ったことが悪いわけじゃないんですけどね。あそこで志村けんが入ったことで、『全員集合!!』の寿命が伸びたわけですしね。
by いっぷく (2018-11-01 04:04) 

hana2018

田中絹代と言えば、日本芸能史の中でも数々の伝説的エピソードを持っていて…
記載されている内容…、経験したアメリカ外遊がよほどお気に召したのか、はたまたテンションが上がり過ぎて悪乗りしてしまったのか?
もう一つ有名なエピソードに、寝室で夫婦げんかの最中に彼女「ここで、おしっこをしてやる」と言った。。そちらも強烈で、世間知らずで、芸だけの世界で生きてきた人生の垣間見える一面のように感じられてなりません。
あの通り身体は小さくても、一身で家族みんなの生活を支えて生き抜いた。華やかに見える芸能の世界にかかわらず、悲しい一面が伺えた、切ない人生であったと思いました。
by hana2018 (2018-11-01 09:15) 

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